第7章 赤色ドロップ
頭がついていかず、相槌をうつことさえ出来ていない名前を気遣う素振りを見せた朋子であったが、ふるふると緩く頭を振ったあと、それだけじゃないよ、と言葉を続けた。
「教科書、自分のじゃなかったでしょ?それね、名前の教科書にカミソリがたくさん仕込まれてたの、幸村がノート入れる時に気づいたからなんだよ。最初はカミソリを全部剥がして、そのまま机に入れようとしたけど、指切っちゃったらしくて教科書に血がついたから自分のと交換したんだって」
「う、嘘…」
ーーじゃあ、あの絆創膏の跡は…。
ぶわりと、先程よりも大きく肌が粟立った。
今まで疑問に思っていた事が、まるでパズルのピースが全てハマったかのように目の前に差し出され、名前は瞳を揺らし唇を戦慄かせた。
自分の知らない所で、自分の為に、自分に気づかれないようにひっそりと手を回して嫌がらせを消していた幸村。それなのに、名前は疑問に思いつつも深く追求などせず、呑気に生活していた。
ーー私、本当に馬鹿野郎だ…!!
ぎゅっとスカートを握りしめながら、名前は大粒の涙を流しスカートに斑点模様をつくっていった。
頭が良いのは勉学に対してだけ。人間関係は鈍感で、自分に向けられる敵意さえまともに見抜けない、間抜けな自分。名前はそう、心の中で自分を冷静に分析しながらも、ぼたぼたと涙を流し続ける。
そんな名前を見つめたあと、朋子はゆっくりと木製のベンチから腰をあげた。
「名前、あのね。幸村にあんな事言ったり、丸井と付き合えって言った私がこんな事言うのおかしいって思うんだけどさ、」
朋子は声を震わせながらも、必死に言葉を紡ぎ、そっと名前の目の前に立った。
木製のベンチに座る名前と、そんな名前を見下げる朋子。お互いぼろぼろと涙を流しながらも、視線はしっかり絡んでいる。
何故急に、自分の目の前に来たのか…涙を流しつつも名前は不思議そうな表情を零すと、そのすぐあとに、何故か朋子はそっとコンクリートに座り込んだ。
「ちょ、ちょっと朋子…?!」
冷たいコンクリートに正座の形で座り込んだ親友に、名前はギョッと顔を破顔さ声を裏返した。