第7章 赤色ドロップ
「あれ絶対、宮野がやったんだよ…!幸村に問い詰めても口は割らなかったけど、あの感じは絶対宮野がやったんだ!」
声に怒りの色を滲ませながら、名前は両手を握り拳にしてそう叫んだ。
ーー宮野さん、か。
浮かぶクラスメイトであり、左隣である彼女の顔。昨日から様子が変だとは思っていたが、まさかこんな事をやるなんて、と名前は驚きが隠せずにいた。
それと同時に、自身の机が違っていたことも、幸村の机にマジックの落書きが見えたのも合点がいった。机を変えたのは、きっとマジックの落書きが綺麗に落ちなかった為、自身の机と変えたのだろう。
「後で、幸村くんに謝らないと…それに、机元に戻して…」
「名前、それだけじゃないんだよ」
「え…?」
ぶつぶつと言いながら思考を巡らせていた名前の言葉を、朋子の静かな声が遮った。
それだけじゃない。そんな朋子の言葉に名前は目を丸くし、相手へと視線をやれば先程まで引っ込んでいたはずの涙がぽろぽろとまた溢れていた。
止まっていた手を慌てて再開させ、背中を撫でさすると、朋子はぽつりぽつりと話し始めた。
「名前さ、ノート無くなったでしょ?」
「あ……う、うん」
ノート、という単語にぎくりと体を跳ねさせた。その話は朋子にしていなかった為、驚いたのだ。
「で、次の日ノートが返ってきたでしょ?」
「う、うん。…けど、私のノートじゃない。使ってたノートの種類も、中身も同じだったけど…字が、違った。私の字じゃない。それにノートもあんな真新しい感じじゃなかった」
「そう。それね……幸村が、やったんだよ」
「え?幸村くんが…?なんで…」
不意に出てきた幸村という名前に、名前は眉を寄せ訝しげな表情をあらわした。
何故、幸村が自分のノートを真似てそれを机に入れたのか…全く理由が分からなかった。
「あんたのノート、ゴミ捨て場に捨てられてたみたい。それを幸村が拾ったんだけど、所々汚れててとてもそのまま机に入れられる状態じゃなったんだって。だから、幸村が自分でノート買って、あんたの字に似せて中身全部写して、机に入れたらしいの」
ゆっくりと言葉を紡ぐ朋子。彼女の言葉に頭がついていかなかった。