第7章 赤色ドロップ
自然と早鐘になる心臓をそのままに、名前は朋子の次の言葉を待った。
急かしたい気持ちもあったが、泣きじゃくる朋子を前にしてそんな事はとても出来なかった。なにより名前自身、早く聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちが半分半分で、どうしていいか分からなかったのだ。
泣きじゃくる親友と、不意に出てきた幸村の名前。いい知らせではないだろうと安易に想像がついた。
冷や汗のようなものをじんわりと額に浮かばせながら、こくりと喉を鳴らせば、少しだけ落ち着いたのか朋子はゆっくりと話し始めた。
「私昨日ね、家に帰る途中でお弁当忘れた事に気がついたの。明日でもいいかなー、なんて思ったけど、一日置いたお弁当箱だと臭くなるかな?なんて思って学校に戻って取りに行ったの」
朋子は話しながら視線を自身の手元へと移した。
真剣な話を聞くという、この空気が気まずいのか、しきりに両手を重ねたり握ったり、指先をなぞったりと忙しない動きを見せている。
落ち着きのない彼女の仕草を見つつも、背中をさする手は止めぬまま、相槌を打ち続きを促した。
「それでね、学校着いて…教室入ったら、幸村がいてさ…げっ、なんて思いながら自分の席行こうとしたら、あいつね…」
その時の事を思い出したのか、緩く唇を噛んだ朋子。ほんの数秒の間を開けてから、再度口を開いた。
「名前の机、綺麗にしてたの」
「え…?私の、机?」
「そう。……名前の机ね、マジックでめちゃくちゃに落書きされてたの。死ねとか、そんな汚い悪口がたくさん書いてあった」
「で、でも…私の机は…あ、」
名前はそこでふと、思い出した。自身の机が、朝から違っていた事に。それと同時に、幸村の机に見た黒いマジックの落書きも思い出し、ぶわりと肌が粟立った。
「私びっくりしちゃって、思わず幸村に何してんだ、って怒鳴ったの。そしたら、名前には言わないでくれ、って。綺麗に拭いておくからって」
そう言った朋子は大きく鼻を啜り、先程までの悲しげな表情から怒りの篭った表情へとがらりと変えた。