第7章 赤色ドロップ
名前は朋子の後を追いかけて、屋上まで続く階段を登りきった。既に彼女は屋上へと足を踏み入れているらしく、いつもぶら下がっている南京錠は見当たらなかった。
ぎぃ、と音を立てて重たいドアを、体を使って押し開け、狭くて開放的な箱庭へと足を踏み入れた。
幸村とのごたごたがあってから、ここに来るのは朋子と二人になってしまった。たまに、丸井やジャッカルも混じって四人で…などもあったが基本的に二人で昼食を共にしていた。
恐らく1クラスの生徒達が屋上に来れば、ぎゅうぎゅうになってしまうであろう屋上という名の狭い箱庭は、当たり前だが天井がなく青空がいつも出迎えてくれてそれだけで開放的な空間に思えてくる。
今日もいつもと変わりなく晴れ渡っている空を仰ぎみたあと、朋子が座っているであろう木製のベンチへと視線を投げれば、やはり彼女はそこに居た。
てっきりいつものように弁当を先に広げて食べていると思ったが、名前の読みは外れ、木製のベンチに腰掛けている朋子はただぼんやり自分の足元を眺めていた。
「…朋子、本当になにがあったの?今日変だよ」
彼女の傍らまで行き、隣に腰を下ろしながらそう言葉を投げれば、朋子はたっぷりと時間を掛けてからゆっくりと顔を上げた。
視線が絡み、思わずどきっとした。いつもは飄々としていたり、強気だったりする朋子が、目にうっすら涙を溜めていたからである。
「ど、どうしたの?なにか嫌なことあったの?」
「名前っ…名前、私…」
「うん。大丈夫、ちゃんと聞くから、落ち着いて」
ビー玉のような綺麗な瞳から、ぽろぽろと涙を流し必死に言葉を紡ごうとする朋子の背中をゆっくりとさすりながら、名前は言い聞かせるように言葉をかける。
すると、その言葉に少しだけ落ち着きを取り戻したのか、朋子は目元を拭いながら、そっと口を開いた。
「これ、幸村には絶対に言うなって言われたんだけどね、」
「幸村くんが?」
不意に出てきた名前に、名前の心臓は勝手に大きく跳ね上がり少しずつ早鐘を打ち始めた。