第7章 赤色ドロップ
ーーそう言えば、丸井くんが最近部活ハードになってきたって言ってたな。
ふとそんな事を思い出した。常勝を掲げている立海テニス部。ただでさえハードな筈なのに、以前よりもハードになったと言う。
部活終わりにお菓子を口していた丸井の疲れきった顔を思い出しながら、目の前にいる幸村の顔をぼんやりと眺めていると、不意に彼の唇が動いた。
「愛卯、宜しくね」
「……行こ、名前」
「えっ」
なにか含みのある言い方に、名前は眉を寄せたが、相手の言葉に反応することなく朋子は言葉を紡ぐとそそくさと教室を出ていってしまった。
訳が分からず置いてけぼり状態な名前であったが、姿が見えなくなってしまった朋子の後を追いかけるため慌てて机の横に引っ掛けておいた弁当を引っ掴んだ。
「じゃあね、幸村くん」
「うん、行ってらっしゃい」
軽く手を振れば、同じように手を振り返してきた幸村。たったそれだけの事なのに、名前の胸は心地よく跳ねる。
少しだけ緩んでしまいそうな頬を無理矢理引き締め、幸村から視線を外せば、ちらりと視界に入り込んだ宮野。自身の席で弁当を食べている。不機嫌顔は消え去り、今は無表情だ。
ーーいつも幸村くんとお昼食べてるのに…。
ふとそんな事を思った。幸村と宮野が付き合い始めたという噂を耳にしてから、二人は周囲に見せつけるようにして教室でお昼を共にしていた。
いや、見せつけるようにしていたのは宮野が名前にたいしてだけの話なのだが。
幸村は名前との一件があってから、日に日に笑うことが少なくなり、宮野と昼食をとっていても笑うどころかあまり口をきいてもいないようなきがした。
それでも毎日昼食を二人でとっていたというのに、何故か今日は宮野が早々に弁当を広げたべていた。いつもなら彼女の前に椅子を持ってきて食べていた幸村も、自身の席へと戻り昼食を取り始めた。
ーーどういう事…?
自然と寄ってしまう眉間をそのままに、とりあえず朋子を追わなければと、名前は教室を小走りで出ていった。