第7章 赤色ドロップ
「あのさ、名前」
「う、うん?どうしたの」
「私昨日っ…」
「愛卯」
鋭い声だった。まるでそれ以上の発言を許さないと言うような、そんな声。
名前と朋子はその声に大きく体を跳ねさせたあと、声のした方へと視線を向けた。そこに居たのはテニスバックを肩にかけた幸村が眉を寄せ、立っていた。
視線は朋子へと向けられていて、少しだけ威圧するようなものが混じっていた。
その視線に、朋子はバツが悪そうな表情を浮かべるとそっと視線を逸らした。まるで、二人の間で視線だけで会話をしたような雰囲気だった。
名前だけが分からず、取り残されている。
「おはよう、二人共」
しかし、そんな名前に気づかないのか、幸村は昨日と同じように少し疲れた表情を浮かべながら朝の挨拶を交わしてきた。
それにたいし、朋子は短く、はよ…、とだけ答えるとそそくさと自身の席へとも向かってしまった。そんな朋子を見て、幸村も自身の席へとつく。
そんな彼を視界から外そうとした矢先ーー
「はぁ…?」
如何にも不機嫌そうな、そんな声が耳に滑り込んできた。
反射的に声のした方へと視線を向ければ、そこには宮野がいて、やはり不機嫌そうな表情をして名前を睨みつけていた。
いや、正確には名前を睨みつけていたと言うよりも、名前の机を睨みつけていた。
ーーなんなの、昨日から。
あからさまに不機嫌そうな表情とオーラを出し、自身を威圧してくる宮野に名前は苛立ちを覚えた。
なにか明確な理由があって自身を睨みつけてくるのなら分かるが、今の名前には皆目検討がつかなかった。
この机がなにか関係している事に間違いはなさそうだが、詳細がわかっていない分それだけでは睨みつけられ威圧的なオーラをあてられるのは解せなかった。
言いたい事があるのなら、いっその事言ってほしい。そうすればすっきりするのに、と名前は僅かに眉間にシワを作りながら、ゆっくりと口を開けば、見計らったかのようにSHR開始の鐘が鳴った。