第7章 赤色ドロップ
「え?」
不意に漏れ聞こえたその言葉に、名前は目を見開き宮野の方へと視線を向けた。しかし、宮野は名前の視線など気にした素振りも見せず、ただ不機嫌さを表情に表したまま前へと視線を向けていた。
ーーどういう事?
机の上に並んだ幸村の教科書を見つめ、名前は一人頭を抱え悩んでいた。
しかし、その悩みは結局晴れぬまま、SHRを終えてしまい…挙句、話を聞こうにも幸村にも宮野にも避けられ真意を掴めぬまま、その日一日は終了してしまった。
* * *
水曜日。名前は自身の席について早々、違和感に襲われていた。
机がいつも使っていたものと違うのだ。名前の机は左上隅になにかで削られたような跡があった。それをよく授業中暇な時指先で撫でていたからよく覚えている。
しかし、今名前の目の前にある机はその跡がない。掃除の時に誰かの机と入れ替わってしまったのだろうか?と首を捻り机の中身を見てみたが、昨日と変わらず、幸村の教科書と自身のノートがそこにあった。
更に訳が分からず首を捻ったまま眉を寄せるも、ずっと立っている訳にもいかないのでとりあえず席に着くことにした。
スクール鞄を机の横に引っ掛けてから、もう一度机をじっと見つめながら指の腹でそっと撫でつける。
「おはよう」
「うわっ」
机の方に意識が向いていたせいか、背後に人が来たことに気づかなかった。名前は小さく悲鳴をあげると、反射的にそちへと視線を投げた。
後ろには朋子が立っていた。
「おはよう朋子、ぼーっとしてたからびっくりしたよー」
苦笑気味にそういった名前に、いつもらば、シャキッとしなさいよー!、なんて喝を入れてくる朋子だが、何故か今日は口を閉ざしている。
表情は曇っていて、なにか言いたげにスクール鞄の肩紐をきつくにぎりしめている。
「朋子…?どうしたの?元気ないけど…なにかあった?」
親友の曇ったその表情に、名前は思わず席から立ち上がり相手の顔を覗きんだ。
すると、朋子は暫しなにか考えるような表情を見せたあと、意を決したようなものへと変えた。