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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



「…なんで?どういうこと?はぁ?」

 先程までの明るい声が嘘のように、地を這うような低い声を出した宮野に、名前はびくりと体を震わせた。
 相変わらず彼女の視線は教科書に向けられていて、名前は訳が分からぬままただ宮野をじっと見つめる事しか出来ないでいる。
 すると背後から、おはよう、と優しく耳触りのいいあの声が聞こえてきた。とくん、と勝手に心臓が揺れ動いた。最低だ、と名前は思った。
 ゆっくりと瞬きをひとつしてから、名前はゆっくりと声のしたほうへと振り向いた。そこにはやはり、思った通り幸村精市がそこに居た。
 名前が彼に朝の挨拶を返すよりも早く、宮野は不機嫌そうな表情を隠しもせず幸村へと言葉を吐き出した。

「ちょっと精市くん!これどういうこと?!これ精市くんの教科書でしょ?!」

 ヒステリック気味に大きな声で叫びながら、机の上の教科書を指さした宮野に、名前は訳が分からず鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまう。
 しかし、訳が分からないのは名前だけのようで、言葉を投げられた幸村は少しの間のあと嘆息し、そっと宮野を睨みつけた。

「どういう事は俺の台詞だよ。俺が昨日言ったこと、忘れたのかい?」
「そ、それはっ…」
「この話は終わり。じゃあね、名前」
「あ、う、うん」

 言いたいことや聞きたい事がたくさんあった名前だが、少し疲れたような笑みを浮かべる幸村に、その全部が喉の奥に引っ込んでしまった。
 幸村の教科書だと言うそれを返すことさえ忘れ、名前はしぱしぱと目を瞬かせただじっと彼の背中を見つめていると、ふとある事に気がついた。

 ーー指、怪我してる?

 白くて細くて、けどちゃんと男らしい幸村の手。その綺麗な幸村の指に、絆創膏が巻かれているのだ。それも、一本や二本じゃない。両手全部の指に絆創膏が巻かれており、酷い指は二枚も絆創膏が巻かれている。
 そんな派手な傷、なにをどうしたらそうなるのか。
 不自然すぎる幸村の手に、名前は眉を寄せ思考を巡らせていると、

「アンタのせいだから」

 ぼそっと、そんな声が隣から聞こえてきた。

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