第7章 赤色ドロップ
名前の手の内にあるノート。たしかに名前が使っていたノートと同じものだが、やけに新しく、使用感があまりないものだ。
眉を寄せ、首を捻りながらぱらぱらとノートを開けば、一字一句余さず名前が書いたものと同じものが書かれている。字も名前の書く字に…よく似ているが、違う。
まるで誰かが名前の字よく似せて書いたような、そんな字だ。
誰がこんな事をしたのだろうか?と名前は思考を巡らせた。そして、ぱっと浮かんだのは幸村の顔だった。とりあえず、幸村が来たら聞いてみることにしよう。
このノートの事を幸村が知っていても、知らなくても、ノートが無くなったと言うことを幸村に昨日話したのだから、この事を言う必要があるだろう。
そんな事を考えながら、とりあえずノートを机にしまおうとして、ふとまた違和感に襲われた。机の中に手を突っ込み、中に入っていた教科書やノートを全て取り出した。
「…どういうこと?」
思わずそんな声が漏れた。
机に入っていた教科書は、何故か名前のものではなかったのだ。机の中に入っていた教科書が全部、自分のものではなく、どう見ても他人の教科書で、名前は眉を寄せた。
名前が教科書を開く時は授業中しかない。その為あまり折れ目や使用感が少ないのだが、今机の上に置かれているそれは違う。よく使用しているのか、折れ目などがあるし、アンダーラインなどが引かれている。
これは、しっかりと授業を受け、尚且つ家などでも自主的に勉強している者の教科書だと、名前は理解した。…そこは理解したのはいいが、何故その教科書が、自分の机にあるのかは…理解出来なかった。
そして、自分の教科書はどこにいった?と首を捻れば、おはよー名前ちゃん!、とやけに明るい声が背中にぶつけられた。見なくても分かる。宮野だ。
そのやけに明るい声に、名前は少しだけ苛立ちを覚えたが、ダメだダメだと自分を叱咤し笑みを浮かべてから挨拶を返した。
視線を宮野へと向ければ、何故か彼女の視線は自分ではなく名前の机の上…教科書へと向けられていた。目を見開き、信じられないという表情をしている。僅かに、怒りも滲んでいる気がする。