第7章 赤色ドロップ
しかし、脳裏には丸井の笑顔が浮かんでいて。
幸村との会話で喜んでいる自分の汚さに、じりじりと心臓がちぎれるような痛みを感じた。
自分自身の心がよく分からず、名前は思わず苦笑を漏らせば、おはよう!、と明るい声が二人の背中にぶつけられた。
その声に、無意識のうちにぎくりと名前の体が震える。明るい人懐こそうな可愛い声。
「…おはよう、宮野さん」
名前はぎこちない笑みを浮かべながら、声のした方へと顔を向けそう言葉を投げた。
視線の先に居たのは、やはり名前の想像した通り宮野で。彼女は金曜日の事などなにも無かったかのようににこにこと人懐こい可愛らしい笑みを浮かべている。それが逆に、怖いと、名前はおもった。
なんの話してたの?と幸村の腕に自身の腕を絡めた宮野。見せつけるようなその行動に、名前は僅かに表情を曇らせた。
「あ、もしかして、なにか無くなった感じ?」
くすくすと癇に障る笑い方を零しながら、言葉を吐いた宮野に、幸村の眉が跳ね自身の腕に絡みつくその腕を外してから、彼女の手を引き教室を出ていった。
ーーなに、なんなの?
取り残された名前は訳が分からぬまま、ぽつん、と自身の席で二人が出ていったドアを見つめる。と、その時、幸村たちと入れ替わるように朋子が教室へとやってきた。相変わらず遅刻ぎりぎりの時間である。
そんな事を思われているなんて知る由もない朋子は、欠伸を隠しもせず歩いていたが、教室に入るや否や、ぱちりと名前と視線が絡んだ事に頬を緩ませ手を振りながら名前の元へとやってきた。
「おっす!なになにー朝から熱視線くれるじゃーん」
「あはは、おはよ朋子。ちょっとね、幸村くんたち見ててさ…」
「幸村?あぁ、なんかさっきすれ違ったよ。なんか幸村、珍しく怖い顔してたけど、なんかあった?」
首を傾げ問うてくる朋子に、話そうかと思ったが、それを話してしまうと見た目によらず血の気の多い朋子は宮野と取っ組み合いの喧嘩でもしてしまうのではないか?とやめておいた。