第7章 赤色ドロップ
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そんな事があったのが、先週の金曜日。そして今は土日を挟んで月曜日の朝だ。頬の腫れもすっかり良くなっている。
月曜日と言うのはなんともやる気が出ないものである。大きな欠伸を手で抑えながら、いつものように教室のドアを開き中へと入ればクラスメイトたちからの挨拶が投げられた。
それに自分も挨拶を返して、席へと腰掛けスクール鞄を机の横へと引っ掛けた。
SHR開始まであと10分と言ったところ。
ーーそう言えば、金曜日にやった数学の授業、どこまで進んでたっけな?
ふとそんな事を思い出し、相変わらず勝手に出てくる欠伸を手で隠しながら机の中に手を突っ込み、ノートを探して見るも何故か見当たらない。
首を捻りながら机の中のものを全て出してみるも、やはり見当たらない。持って帰った記憶はない。提出した記憶もない。ならば何故、ないのか?
名前は眉を寄せ訝しげな表情をすれば、どうしたんだい?、と控えめな声が聞こえてきた。どくん、と心臓が跳ね上がる。
耳触りのよい、優しい声。その声が誰の声かなんて、振り向いて確認しなくてもすぐにわかる。
こくと喉がなった。自分でも無意識のうちでしてしまった事だ。揺れる瞳をなんとか堪えて、名前はそっと声のした方へと視線を流した。
そこに居たのは、やはり幸村精市で。彼を視界に捉えた瞬間、名前の心臓は痛いと思うほど大きく跳ね上がった。
「お、はよう。幸村くん」
声を掛けてくるなんて思っていなかった名前は、ばくばくと煩い心臓のせいか僅かに声が掠れてしまった事に内心で舌打ちを零した。
それでも表情だけは、と笑みを浮かべれば、幸村は僅かに目を見開いたあと嬉しそうな、辛そうな、悲しそうな、そんな感情が入り交じった表情を零しつつも笑みの形に表情を無理矢理つくった。
お互い不自然すぎる笑みで視線を絡ませること数秒、もう一度幸村がどうしたのかと問うてきた。
「いや…たいした事じゃないんだけど、ノートが見当たらなくて。持って帰った記憶もないし。提出とかしてないよね?数学のノートなんだけど」
「数学のノート?いや、提出はなかった筈だけど…」
「だよね?変なの。狐につままれたみたい」
この時、名前はノートの事よりも久しぶりに幸村と会話が出来たことに喜びを感じてしまっていた。