第7章 赤色ドロップ
泣きじゃくる声と、鼻をすする音が教室に響いた。
しかし、それもほんの束の間の事で、気づけば名前は柳生の腕の中にいた。
訳が分からず反応する事も出来ず、泣きじゃくってぐしゃぐしゃの顔のまま柳生を見上げれば、そっと後頭部に手を添えられそのまま相手の胸板に引き寄せられた。
見た目は細いが、しっかりと筋肉のついた柳生の胸板に、名前の額がこつん、と到着した頃ーー不意に柳生が口を開いた。
「苗字さん、今はなにも考えずただ涙を流すだけにしましょう。でないと、泣いてる時に思い詰めると何もかも嫌になってしまいます」
「やぎゅ、く…でも、私っ…宮野さんに、嫌なこと、たくさん言った…」
「そうですか…では、泣き終わった後に謝るか否か、考えましょうか」
そう言って優しく背中を叩きながら、後頭部に回っていた手が優しく頭を撫でるものだから、名前は考えることを放棄して更に大粒の涙を流した。
宮野を罵倒してしまったことに後悔し、なんであんなやつが幸村くんの隣にいるのかと腹を立て、それは自分が宮野に負けたからと身を引いたからだと悲しさと自身の愚かさを感じ、また酷い恋愛を味わう羽目になってしまった幸村に同情し…名前の感情はぐちゃぐちゃだった。
しかし柳生の、今は考えるなと言う言葉を聞き、力が抜けたきがした。すっと救われるような気がした。
「やぎゅ、く…」
「はい、なんでしょう」
「あり、がと…う。いつ、も…ごめん」
「私がしたくてしている事ですから、おきになさらず」
そう言いながらも、柳生の優しい手は名前の頭を撫でていて。
優しく頭を撫でてくるその手に、優しく背に回された腕に、暖かい柳生の体温に、名前の気持ちはあたたかくなった。
その優しさに縋るように、名前はひたすら泣いていた。
その後、柳生に頬を手当てしてもらった名前が生徒会室に向かい、誰にやられたんだと須野が暴れ始めたのは言うまでもない。