第7章 赤色ドロップ
身構えていた名前は訳が分からず、そっと目をあけーーそして、目を見開いた。
何故か、柳生比呂士が振り上げられた宮野の手を掴んでいたのだ。
いつも穏やかな表情を浮かべている柳生が、ピリついたオーラを出しながら宮野の手を掴んでいる。いつもの笑みは、ない。
訳が分からず、しぱしぱと目を瞬かせていた名前だが、はっと我に返り口を開いた。
「や、柳生くん…?な、なんで」
そう呟いた名前の言葉に、柳生はそっと苦笑を浮かべてから宮野の手を離した。
「部活に向かおうとしたのですが…廊下を通る際にここから怒鳴り声が聞こえてきまして、気になって来てみたのですが…」
言葉をそこできった柳生は、宮野へと視線を投げた。
掴まれた手をさすっていた宮野であったが、柳生のその視線に気づき、バツが悪そうな表情をあらわすと自身のスクール鞄を引っ掴むと慌ただしい足音をたて教室を飛び出していった。
残された二人は暫し無言のまま、ただ教室に突っ立ていた。
かちかちという時計の秒針が動く音がやけに耳につくのが気になり出した頃、不意に頬が痛みだした。
「いっ…」
先程まで全く痛みなど感じていなかったのに、急に顔を出したひりついた痛みに、名前は顔を顰めそっとそこに手を添えた。頬はじんわりと熱を持っており少し腫れているかもしれない。
その瞬間ーー不意に言いようのない感情がどっと名前に押し寄せた。
嫌悪感と、罪悪感と、寂寥感と、嫉妬ーーほかにも沢山の感情がごちゃ混ぜになり名前の心を掻き乱した。
その掻き乱された心は、すぐにキャパオーバーとなってしまい…名前は気づけばぼろぼろと泣いてしまっていた。
「っ…うっ…くそっ…あほ、ばか、自分、の…ばか…本当に…」
溢れ出る大粒の涙を両手で何度も何度も拭いながら、名前は独り言のようにぽつぽつと呟き泣きじゃくった。
柳生が目の前にいて、酷く悲しげな顔をしていたが、その事に気を回してやれるほど名前の心に余裕はなく、ただただひたすら泣きじゃくった。