第7章 赤色ドロップ
その時名前は脳裏に不二のあの言葉を思い出していた。
1人は真っ直ぐだけど不器用に相手を想う人。
1人は相手に惜しみない愛を与える人。
1人は相手の幸せを願い助言を与える人。
1人は相手の幸せが自分の幸せだと寄り添い支える人。
この言葉を不二から聞いて、宮野はこの4人の中の誰だろうと考えていた。それと同時に、その中のどれかでさえあってくれれば…幸村も少しは報われると思っていた。
過去に辛い恋愛ばかり経験してきたという幸村。今現在の恋愛は、幸村にとっては辛いものかもしれないが、相手からの愛を感じれば次第に気持ちは変わると、名前は思っていた。
ーーなのに、
「貴方は4人の中の誰でもなかった」
吐き捨てるように宮野へとそう言った。
それと同時に、自分へと言い聞かせるように、その言葉を頭の中で反芻させた。
宮野も、自分も、結局は幸村のお姫様でも、4人の中でもない、ただのモブの一人だったのだ。
「ねぇ、宮野さん」
「な、なによ…」
ようやく足の力が戻ってきたのか、ふらつく足でなんとか立ち上がった宮野は未だ微かに瞳を揺らしながら名前を睨みつけた。
「貴方、顔は可愛いのに…やってる事は馬鹿みたいだよ」
「なっ…!」
「空っぽなのどっち?幸村くんがお人形さんだっていうけど、私には貴方の方がよっぽどお人形さんだよ。顔だけは可愛くて…自分をよく見せたいからって見栄のためだけに幸村くんと付き合ってさ。本当に、頭空っぽ」
そう呟いたと同時に、乾いた音が教室に響いた。宮野が名前の頬を叩いたのだ。
怒りでふーふーと息を乱しながら、名前の頬を叩いたであろう手を空に浮かせている宮野。その表情は怒りと羞恥が混じっているように見える。
「偉そうなこと言ってんじゃねーよ!たいして可愛くもねーくせに私の事馬鹿にすんな!」
「…馬鹿にしてないよ。本当の事だもん。知ってた?人って図星つかれると頭にくるんだよ」
「っ…!て、めぇ…!」
ひゅ、と空を切る音が聞こえた。また叩かれるのだ、と名前はきつく目を瞑った。
…が、待てども頬に痛みはやってこなかった。