第7章 赤色ドロップ
「あんたの事がさ、まだ好きなんだって、精市くん。女々しいよねー名前ちゃん丸井くんと付き合ってるって言ってるのに」
そう吐き捨てるように言った宮野の雰囲気はいつもと違っていて、まるで見ず知らずの他人と話している気分に陥った。
しかし、目の前にいるのは間違えなく宮野。黒く短い髪の毛を手ですきながら、チャームポイントの八重歯を覗かせる彼女。いつもはきらきはとした目が、酷く淀んでいる。
その目がなんなのか、名前はすぐに理解した。
"嫉妬の目"だ。
その目にとらえられた名前は一瞬身をかたまらせたが、すぐに体の力を解いてから口を開いた。
「…それは、私はなんて言っていいか分からないけど…時間が解決するんじゃかいかな?それに、宮野さんが寄り添ってあげてたらきっと元気になるって」
時間が解決する、なんてよく言えたもんだ、と名前は自嘲気味に心の中で笑った。
自分自身、まだ幸村の事を引きずっていると言うのに。なにを綺麗事を言っているんだ。
そう、心の中にいるもう一人の自分が自分を見下し罵倒する。
そのもう一人の自分の言葉に、何度も心の中で頷いていると、不意に舌打ちが聞こえてきた。宮野から漏れたものだった。
「別に元気になろうがどうしようが、私はどうだっていいのよ。元気になった所で精市くんの話なんてつらないし。私が言いたいことは、そうじゃなくて…私と付き合ってんのにあんたの事で頭がいっぱいで話しかけても何しても上の空なのが腹立つって言ってんのよ」
気だるげに首元をさすりながらも、苛立たしげに自身を睨みつけてくる宮野の言葉に、名前は言葉を失い暫し黙り込んだ。
ーー幸村くんが、元気だろうが、どうだっていい?話がつまらない…?
「じゃあ…なんで幸村くんと付き合ってるの?」
少しだけ声に怒りの色が混じってしまったが、今の名前にはそれを気にする余裕は無かった。後ろ手で合わせていた手に更に力が入り、手の甲に爪がたってしまう。
しかしその痛みさえ感じないほど、名前は宮野の次の言葉を待ち集中していた。