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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



 間もなくして、自身の教室にたどり着いた。
 見慣れたドアに手をかけ、そっとそれを開き中へと足を踏み入れれば、まだ教室に残っていた人に気が付き自然と目がそちらへと向かった。
 そして、ほんの僅か、目を見開く。
 
「あれ、どうしたの?名前ちゃん」

 屈託のない笑みを向けてきたのは、宮野だった。
 その笑顔を受け、名前は同じように笑みを浮かべ忘れ物を取りに来たのだと、言葉を返し自身の席へと歩を進め、目的の物を手にしスクール鞄の中へと詰め込んだ。
 ちゃんと自分は笑えているか不安になったが、相手のにこにことした屈託のない笑みが未だ消えていない所を見ると大丈夫そうだ、と名前はほっと胸を撫で下ろしたくなった。

「ねぇ、精市くん最近元気ないんだ、なんでだと思う?」

 しかし、その胸を撫で下ろすという動作も、彼女のその言葉により消し飛んどしまった。
 ドアへと向いていた足が止まり、方向を変え体ごと宮野への方へと向ければ、彼女は未だにこにこと笑みを浮かべている。
 その時初めて、名前はその笑みが屈託のない笑みではなく、貼り付けられた偽物の笑顔である事に気がついた。宮野は、自分と同じように貼り付けた笑みを浮かべていたのだ。

「…さぁ、なんでかな?宮野さんは何か心当たりないの?」

 至って普通の声音でそう答えた。ただ、態度までは制御出来ず、後ろ手で合わせた両手を、ぎゅっと強く握りしめていた。そうしないと、声震えてしまいそうだったのだ。
 名前のそんな態度に、少し肩透かしを食らったような表情をこぼした宮野であったが、すぐに先程の貼り付けた笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。

「うん、あるよ、心当たり」
「そうなんだ。じゃあ、その心当たりを取り除いてあげればーー」
「あんた」
「えっ…?な、なに?」
「あんたが、その心当たりだって言ってるの」

 先程までの笑みは何処へやら、目を据わらせ低い声でそう言った宮野に背筋に寒気のようなものが走った。ぞわぞわと粟立つ肌。
 思わず足を後退させれば、そんな名前を追撃するようにまた宮野は口を開いた。

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