第3章 白色ドロップ
上から降り注ぐ水に、身を踊らせ喜ぶ花をぼんやりと眺めていたら不意に幸村が口を開いた。
「苗字さんはこの中に知っている花はあるかい?」
少しだけ声を弾ませながらそう問うてきた幸村の言葉に、えっと…、と言葉を濁しながらプランターで咲き誇る花々をぐるりと見渡した。
色とりどりの花々はどれも美しく立派に背筋を伸ばし太陽を見上げあている。
その殆どが見たこともない花だが、ひとつだけ名前を知っている花を見つけそれを指さした。
「この花、知ってるよ。パンジーでしょ?」
紫と黄色のパンジーを交互に指さしながら幸村を見上げれば、ふんわりとした笑みを零し、そう…正解、なんて先生みたいな事を言ってきた。
その柔らかい笑みが、あまりにも綺麗で思わずドキリと心臓が跳ね上がった。
ーー不意打ちのスマイルは危険…。
どっどっど、と早鐘をうつ心臓を抑えながらそんな事を思っていると、花言葉は知っているかい?、と問うてきた。
花言葉。その言葉を聞いて、そう言えば花にはひとつひとつ意味があるのだと思い出した。
同じ花でも色が違えばまた違う花言葉を生み出す花。
そう考えると人間と同じように奥深く、面白いものだな…などと名前は思い思わず頬を緩めた。
「花言葉…知らないな。パンジーの花言葉はなんて言うの?」
「ふふ、パンジーの花言葉はね"もの思い"と"私を思って"だよ」
「へぇ…ロマンチックな花言葉だね」
「そうだね。他にもロマンチックな花言葉は沢山あるよ。反対に、怖い花言葉も沢山あるけれど」
そう言って水やりの手を止めた幸村は、そろそろ行こうか、と小首を傾げて見せた。
ポケットに忍ばせていたスマホを取り出し時刻を確認すれば昼休み終了まであと五分といった所だった。
名前は慌てて朋子へと視線をやれば、彼女は先程座っていた木製のベンチに寝転がり顔にタオルをかけスヤスヤと寝息をたてているではないか。
美少女なのに、やる事が少しオジサン臭くてそのギャップが面白く笑ってしまう。しかし、隣にいる幸村はその光景は見飽きているのか、またあんな所で寝て…、と溜め息を零したのであった。