第7章 赤色ドロップ
脳裏に丸井の笑みを浮かべながら、名前はひっそりと心の中で決意した。
ーー絶対に、丸井くんに別れの言葉を言わない。
付き合う前から自分に優しくしてくれた丸井。
幸村の事を好きだけど、そんな私でも付き合ってくれるのか、と問うた名前に丸井は迷うこなく頷いてくれた。
そんな優しい丸井ブン太と別れるなど、名前にはそんな考え毛頭もなかった。愛をくれる丸井に、ただその愛に溺れ縋りたい。
それもまた、恋であることは頭の弱い名前はまだ、気が付かない。
* * *
時間はあっという間に流れ、丸井ブン太と苗字名前が付き合ってから早いことで一ヶ月が過ぎた。
風の噂で宮野と幸村が付き合い始めたと聞いて、激しく胸をざわつかせた名前であったが、泣きはしなかった。ただ、毛羽立った心に突風が吹き荒れ、心を必要以上に乱していた。
だがそれも、隣に居る丸井のおかげで、なんとか耐えることが出来た。
ただひとつ、気がかりな事があるとすれば…日に日に幸村が笑わなくなってきていた、という所だ。
「名前さん、私の別荘に来ませんこと?」
そんな6月後半のある日。生徒会長であり、名前の友人でもある須野真凛がそんな事を言ってきた。
頬をほんのり紅潮させ、視線をちょろちょろと落ち着きなくさ迷わせている所を見るあたり、少し緊張気味のようだ。
放課後、名前は丸井が部活が終わるまでの時間、よく生徒会室へと入り浸っている。自身の部活がある月曜日と木曜日以外はほぼ生徒会室に居ると言ってもいい程だ。
何故生徒会室に入り浸っているのかと聞かれれば、それは生徒会室最大の権力者と言っても過言ではない…須野真凛からの提案だからである。
"名前さん、ただぼーっと待つのも退屈ではありませんの?宜しければ生徒会室に来るといいんですの。テレビなどもありますの"
そんな言葉をかけてきた須野に、名前は最初のうちこそし遠慮ていたが…その後素直に須野の口から、お話したいんですの…、というか細い声が聞こえた為生徒会室へとお邪魔することになったのだ。