第7章 赤色ドロップ
それから柳生と名前は一心不乱にプリントを束ねてはホチキスで止めダンボールへと詰める作業へと没頭した。
名前も柳生も、先程の真っ赤な顔よりは幾分マシになったがまだ少し頬が赤い。
ーー本当、頭が弱い…私…。
もう少し物事を考えてから言わないと、なんて思いながらホチキスでぱちん、ぱちん、と紙の束をとめたその時ーー廊下の騒がしさに自然と名前の耳はそちらへと集中してしまう。
「本当、有り得ないよね~。精市くんてば女心わかってなさすぎだよ~」
宮野だ、と。名前はすぐに分かった。
その瞬間、無意識のうちに出来上がったばかりのプリントの束に力が入ってしまい、くしゃりとシワを作ってしまった。
「苗字さん?」
柳生の不思議そうな、そして、心配そうな声が横から飛んできた。それにたいし、なんでもないよ、とだけ答えた名前はシワになってしまったプリントを指で丁寧に伸ばしてからダンボールへと詰めた。
「本当本当~。あれはないよね、他のみんな驚いてたし。けど焦った顔可愛かったね、ふふ!」
「それ、私も思った。精市くんの焦った顔ってなかなかレアだよね!写メ撮りたかった~」
宮野と、その友達の楽しげな笑い声が生徒会室の前を通過して少しずつ声が遠のいていく。
それから間もなくして、彼女達の声は完全に聞こえなくなり、名前はそこでやっと、勝手に力が入っていた体を解す事が出来た。
パイプ椅子の背もたれに背中を預け、だらりと天井を仰ぎ見た名前に、柳生はなにか言葉を探す素振りを見せたが、結局言葉を掛けてこなかった。
「ねぇ、柳生くん」
「はい、なんでしょう」
ぱちん、ぱちん。ホチキスの音を奏でながら、柳生が相槌をうった。至って普通のその声音に、ほっとする。
「柳生くんは、顔で人を好きになった事ある?」
「顔で人を、ですか?…うーん、そうですねぇ」
作業の手を止め、顎に手をあてた柳生はぐるりと思考を巡らせる素振りを見せたがそのすぐあとに、ありませんね、とさらりと言ってのけた。
ーー柳生くんも、幸村くんも、顔で人を好きにならないんだ。