第7章 赤色ドロップ
「柳生くんて、手綺麗だよね」
「え…そうでしょうか?はじめて言われました」
不意に呟いた名前の言葉に、柳生は思わず手を止め自身の手を見つめた。
握りしめたり、広げたり、手の甲を見たり。様々な角度から自身の手を見てみた柳生だったが、自分では分からないのか首を傾げている。
「綺麗だよ。指が長くてすらっとしてて、けどちゃんと手は大きくて、テニスやってるからしっかりと皮は厚くて、男の子の手だった」
「そう、ですか…なんだか恥ずかしいですね」
「そう?あ、そう言えば男の子って言えば、柳生くん見た目は細く見えるけどやっぱり体がっしりしてるんだね!抱きついちゃった時腹筋がーー…」
と、名前はそこまで話して自分の失言にはたと気がついた。
ーーこ、これじゃ痴女みたいじゃないか私ーー!!
笑顔を浮かべて話していた名前はその笑顔ままかたまり、みるみるうち顔を真っ赤に染め上げ、次の瞬間には両手で顔を覆い大きく口を開いた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!わ、悪気はなくて!!今の発言は本当に変な意味となく純粋に…筋肉あって凄いな、男の子だなって思っ…って何言ってるの私ーー!!」
最早一人芝居のようになってしまっているが、名前がそれに気づくことはないだろう。
赤い顔を両手で隠したまま、ふるふると左右に大きく顔を振っていて名前だが、ふと違和感に気がついた。柳生からの反応が返ってこないのだ。
うんともすんとも言わない柳生に、まさかドン引きされて言葉も出ないの…?、と真っ赤な顔から真っ青な顔へと変えた名前はそろそろと両手を退かし、ちらりと相手を盗み見た。
「えっ…」
ぽろり、と。思わずそんな声が漏れた。
名前の視界には、何故か顔を真っ赤にした柳生が口元を抑えそっぽを向いていて。耳まで真っ赤である。
「っ…!み、見ないでください」
視線に気がついたのか、柳生は慌てて手を伸ばし、そっと名前の視界を塞いでしまった。
目元に添えられた手の隙間から、相変わらず真っ赤な顔をした柳生が見えて、なんだか自分もつられてしまい名前は先程と同じようにまた顔を真っ赤に染め上げた。