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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



「あはは…そんなにお礼言われるとなんか気恥ずかしくなってくるな…」

 手を握り、真正面から自分を見つめ何度も礼を述べてくる相手に、名前は頬に赤色を差しながらはにかんだ。
 人に感謝されるという事はとても気持ちがいい事で、同時になんだか気恥しくなるものだ。
 へへへ、と頬をかく名前の横顔に、丸井のジト目の視線が突き刺さる中、ねぇ、とまた別の誰かに声を掛けられた。そちらへと視線をやれば、今度は男子二人が同じように数学のプリントを手にそこに立っていた。
 坊主頭に小麦色の肌。野球部である事がすぐに分かった。

「あのさ、悪いんだけど俺らも教えてほしくて」
「数学がさ、俺らすげー苦手で…」
「あぁ、うん。全然ーー」

 いいよ、と答える筈だった。だが、その言葉は横から聞こえた大きな椅子の音で、喉の奥へと引っ込んでしまった。丸井が勢いよく立ち上がり、椅子が後ろへと転げたのだ。
 その音と、急に立ち上がった丸井の行動に、視聴覚室にいた全員の視線が彼へと注がれた。勿論、熟睡している教師二人を覗いての話だが。
 丸井はあからさまに不機嫌そうな表情をあらわしながら唇を尖らせ、何故か名前の筆記用具などを片付け、スクール鞄へと詰め込んでしまった。

「ちょ、ちょっと丸井くん?」

 急になにをしているんだ、と目をしぱしぱと瞬かせる名前に、丸井は彼女のスクール鞄を渡し、にっこりと微笑んだ。

「名前、お前どっか別の所で待ってろい」
「え、ええ…?でもあの人達に、」
「いーから!早く!問題分かんねぇなら俺がアイツらに教えるからいーんだよ!」
「そんな事いって、さっき丸井くん殆ど訳分かんないって言ってたじゃん…って、わ!お、押さないでってば!」

 言葉の途中だと言うのにぐいぐいと背中を教え、視聴覚室の外へと追い出そうとする丸井に、名前は転ばぬようにと足を動かせば、あっという間にドアの向こう側へと来てしまった。

「んじゃ、終わったら速攻LINEすっから。あ、待つのに飽きたりしたり用事が出来たとかならかえっていいからな」
「…帰らない。けどさ丸井く、」
「んじゃな」

 短い言葉を吐いた丸井。それと同時にすぱん!と小気味いい音をたてドアは閉まってしまった。

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