第7章 赤色ドロップ
補習を受けているという事は同学年な事は分かるが、名前よりほんの少し背が高いといったところのその眼鏡男子は恥ずかしいのか、視線を泳がせながらほんのりと頬を赤くしている。
「えっと、なにかな?」
横から醸し出される丸井のオーラに、少しだけ頬をひくつかせながらもそう言葉を投げれば、眼鏡男子は意を決したように名前を真っ直ぐ見つめると、大きく口を開いた。
「あの…ここ、教えてほしくて」
言いながら真っ赤な顔で数学のプリントを指した。じっとその指先を見れば、先程丸井に教えた数式のところだった。
「はぁ?」
「ちょっと、丸井くん!」
「あ、あぁ…悪い。ちょっと驚いちまって」
裏返った間抜けな声を出した丸井。それほどまでに、驚いたのだろう。まさか急に声を掛けてきて、問題の解き方を教えてくれと申し出てくるとは思わなかったのだから。
失礼な声を上げた丸井を軽くたしなめた名前は、すぐに眼鏡男子へと視線を戻し、へらりと間抜けな笑みを浮かべて見せた。なんとも気の抜ける笑みだ。この笑みを傍から見た人は、名前が実は頭がいい、なんて思わないだろう。
「私で良ければ全然いいよ」
「…!ありがとう、本当に助かるよっ!分かんなくても先生起こしづらくて…」
「あー…遠回しに起こすなって言ってたしね」
肩を落とし困ったような表情を零す眼鏡男子に同情しつつ、名前は乾いた笑いを漏らした。
補習と言うのはどうやら自分が思い描いたような楽しいものではないらしい、と名前はこの時はじめて痛感した。
他愛もない話はそこで一旦終了して、名前は数式の解き方を眼鏡男子へと丁寧に教えた。先程丸井にしたように、説明しながらさらさらとプリントに要点を書き込み、理解しているのかを確かめる為質問をする。
それはほんの数分のやり取り。丸井に教えた時よりも早く、眼鏡男子は早く数式を解き明かす事ができ、嬉々としてプリントを握りしめた。
教えてもらったからとは言え、答えを出したのは眼鏡男子本人で。その事が余程嬉しかったのか、眼鏡男子は頬を紅潮させながら名前の手をそっと握り何度も礼を述べた。