第7章 赤色ドロップ
「え、え?補習ってこんな感じなの?自習みたいな?」
「んなわけねーだろい!ありゃ完全職務放棄だな」
「えー…」
勢いよく名前の言葉を否定し、気持ちよさそうに寝息をたてる教師二人を呆れたように眺める丸井。
補習とはどんなものなのか楽しみにしていた名前にとっては大変残念であり、遺憾なことである。
なんだー…つまんないー、と唇を尖らせる名前の頭を軽く撫でた丸井は、椅子から腰をあげると教卓に置かれている二枚のプリントを手にすると再度椅子へと腰を下ろした。
数学と歴史、二枚のプリントを名前へと渡したあと、自分の前にも置く。丸井の眉間にシワが寄った。
「はー…歴史は兎も角、数学…なんだよこれ…訳わかんなすぎだろい」
「え、どこら辺が?」
「どこら辺て…全体的にだけどよぉ、まぁ…強いて言うならこことか…」
言いながら丸井がシャーペンでさしたのは、複雑な計算だからと先日数学教師が授業で言っていたものだった。勿論、名前にはそれが難しいとは思えなかったのだが。
名前は項垂れる丸井に苦笑を漏らしつつ、自分の前に置かれたプリントを手に取り、筆箱からお気に入りのシャーペンを一本取り出した。
「丸井くん、いい?この数式はね、」
メタリックな赤色のシャーペンで、丸井が訳分からないと言った数式をさし丁寧に説明を始めた。
説明をしながら自身のプリントにさらさらと書き込み、丸井に質問をしたりしながら問題を進めれば、おぉ!、と楽しげな声が横から飛んできた。丸井の声だ。表情はきらきらとしていて、嬉しいような、感動しているようなそんな表情だ。
「分かったかな?」
「おー、バッチリだ…すげぇな名前、教え方天才的すぎんだろい」
「へへ、褒められた。嬉しい」
自身で解くことが出来た数式。プリントに書き込まれた答えを何度も見て、感嘆の声をあげる丸井に名前は擽ったそうにはにかんで見せた。
教師が寝た時はどうしようかと思ったが、丸井のきらきらとした表情を見ることが出来て、名前は得した気分に浸っていると不意に、あの…、と誰かに声を掛けられた。
反射的に視線をそちらに向けると、眼鏡をかけた真面目そうな男子が、数学のプリントを握りしめ傍らに立っていた。