第7章 赤色ドロップ
「そういえば、さっきキスする時ガムなかったけど…どうしたの?」
補習者が集まる視聴覚室で、教師が来ないのをいい事に名前は小さな小さな声で疑問に思ったことを丸井へと聞いてみた。
二人用の長テーブル。名前の隣には当然のように丸井が座っている。そして、いつものようにフーセンガムを膨らませている。そのフーセンガムを見てふと思い出したからこそ、冒頭の質問が丸井にぶつけられたのだ。
丸井は真ん丸にフーセンガムを膨らませながら、器用にくるくるとペン回しをしている。シルバーのシャーペンが丸井の指によりくるくる踊る様は見ていて面白い。
「ん?普通にガム出してたけど?」
「え、嘘、いつ?」
「お前がぎゅーって目瞑って可愛い顔してた時」
「んなっ…?!へ、変な事言わないでよ!」
さらりと言われた言葉に、名前の顔は一瞬で真っ赤に染まってしまった。その時の自分を思い出し、あまりの恥ずかしさに丸井の肩を軽く叩けば、お前が変な事聞くからだろい、と怒られてしまった。
その丸井の言葉に、まぁ…たしかに、と名前は納得し赤い顔を隠すように両手を頬へと乗せた。
がらり、と音がした。ドアが開く音だ。
反射的にそちらへと視線を向ければ、数学を担当している教師と歴史を担当している教師が二人揃って中へと入ってきた。中年男性である教師二人は疲れているのか猫背気味で歩き、少しずつ歩を進めて教卓の前へと辿り着いた。
「えー…お待たせしました。補習を始めます。えー…今から数学と歴史の重要な所が記されたプリントを配りますので、各自これを暗記なり計算なりしてください」
「分からないところがあったものは声を出さず静かに挙手してください。それでは私達は今から少し仮眠を取ります。19時前には起こしてください」
そう言ってアイマスクを取り出した教師二人は近くにあったパイプ椅子を手繰り寄せそこに腰掛け、アイマスクを装着するとあっという間に寝てしまった。
そのあまりにも早すぎる寝技に、丸井や名前を含めた補習者達はぽかんと口を開きしぱしぱと目を瞬かせた。
まさか視聴覚室に来て早々教師が寝るとは、誰も思わなかっただろう。