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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



「…名前、」
「……ごめん、丸井くん、今…余裕ない」

 震える声でそう言葉を吐き出し、そっと視線を足元へと落とせば、いつの間に落ちたのか…ジャスミンの花が間抜けにも転がっていた。
 綺麗なジャスミンの花。
 けど、床に落ちくったりとしているその花は酷く滑稽で、酷く哀れで、酷く残酷に見えた。
 まるで、自分のようだとおもった。
 幸村の言葉ひとつで、視線ひとつで、心踊り胸高鳴らせ、まるで幸村の手の内でくるくると踊らされている様な滑稽な自分。
 でも自分には丸井かいるからと、走り出したい気持ちをしまって、殺して、丸井に縋る哀れさ。
 そしてその縋る名前の瞳に映った幸村を残したまま、助けを求めて手を伸ばし丸井へと視線を向ける残酷さ。

 ーー滑稽で、哀れで、残酷だ。

 気づいたら涙が出ていた。名前は丸井へと伸ばした手で、相手の胸倉を両手で強く掴み引き寄せた。

「ちょっ…んっ」

 突然の事に驚き、反応ができなかった丸井はされるがまま体が前へといってしまいーー気づけば、キスをしていた。
 しかしそれは触れだけの軽い軽いキスで。まるで、何かを確認するかのようなキスだった。
 触れるだけだった唇はすぐに離れたが、依然顔は近いままだ。胸倉を掴んだままの名前は、しぱしぱと目を瞬かせている丸井をじっと瞳に閉じ込めながら、そっと口を開いた。

「わた、私はっ…丸井くんが、好きっ」

 泣きじゃくりながらそう言葉を紡いだ名前。必死な様子が、表情から伝わってくる。
 丸井は困った表情を浮かべたあと、ふっと笑みへと変えた。それでも、困ったような笑みのまま、そっと口を開いた。

「俺を好きだって言ってくれんのは嬉しいけどよぉ、俺はお前の笑った顔が好きなんだ。…だから、笑ってくれよ」
「っ…ごめ、ん」
「ほーら、泣くなっての。ガムいるかぁ?グリーンアップル味だぞー美味いぞー」

 子供をあやすように言葉を紡ぎながら、指の腹で名前の涙を丁寧に丁寧に拭っていく。
 その話し方に安堵したのか、名前は少しだけ吹き出して笑って、ありがとう、と呟いた。ほんの少しだけ沈黙が訪れ、二人はへらりと笑うとどちらともなくキスをした。

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