第7章 赤色ドロップ
思わずぎゅっと目を瞑れば、丸井の手がさらさらと髪を梳く感覚に、ぴくりと体が勝手に跳ねてしまう。
瞑った目を更にかたく瞑れば、髪の毛になにかが差し込まれた。先程のジャスミンの花だろうか?
「うし、完璧」
そんな声と共に、相手が離れていく感覚にそっと目を開ければ何故か片手にスマートフォンを手にした丸井がいい笑顔を浮かべ名前を見つめている。先程の不貞腐れた表情は微塵も見られない。
なにをしているのかと、口を開こうとしたその瞬間ーーかしゃ、という音に名前は目を見開いた。写真を撮られたのだ。
「ちょ、ちょっと!なんで写真撮るの?!」
「なんでって、可愛いからだろい。ほら」
さらっと恥ずかしい事を言ってきたかと思えば、スマートフォンを差し出してきた。先程の熱がまだ引かない赤い顔のまま、それをそっと覗き込めば、不思議そうな表情をした名前がそこに映っていた。
頭には、あのジャスミンの花が飾られている。
「け、消して消して!凄い間抜けな顔してるし!」
「あ?やーだね。俺これ気に入ったし。待ち受け決定だろい、こんないい写真」
「い、嫌だってば!丸井くん!」
「あー、もう…うるせぇなぁ」
そんな不機嫌そうな声をこぼしたかと思えば、ふいに丸井の顔が近づいてきて。
反射的に足を後退させたが、それよりも少しだけ丸井の手が早く名前の後頭部にまわり、そっと、触れだけのキスをした。
少しだけかさついた丸井の唇は、柔らかくて、なんだか甘い気がして、気持ちが良かった。
やめて、と突っぱねようとした筈の手が、何故か縋るように丸井の制服を握りしめていて。気づいた時には丸井の舌が名前の口内に侵入していた。
丸井の遠慮がちな舌が、そっと名前の舌を撫でれば、おずおずとその舌に絡んだ。柔らかくて、ぐにぐにした二枚の熱い舌が、互いの唾液を絡めて激しく絡む。
ーー頭、ぼうっとする…。
するりと背中に手を回し、きつく制服を握りしめれば、後頭部に回っていた手がぐっと強くなり更にキスが深くなった。
息が苦しくて、瞑っていた目を薄く開けくぐもった声をあげながら丸井の名前を呼びかけたその時ーー
「丸井」
聞き覚えのある耳触りのいいーー大好きな声が耳にすべりこんできて、二人は弾かれたように身を離した。