第7章 赤色ドロップ
「はぁ…?!」
しかし、驚いたのは名前だけではなかったようだ。
丸井は裏返った間抜けな声を上げ、真っ赤な顔で目を見開き名前を見つめた。
「プリッ。おーおー、熱い熱い。暑いのも、熱いのも俺は好かんぜよ」
そんな仁王の言葉がするりと耳に入り込んできて。そこで初めて自身の言った言葉の恥ずかしさに名前は一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。
ぶわっと赤く染まった顔を隠そうとすれば、不意に頭にむずっとした感覚が走り、顔を上げれば仁王が何故か傍らにいて視線が絡んだ。
「おー、似合っとるぜよ。…じゃ、俺は撤退するなり」
よく分からない言葉を吐いた仁王は、相変わらずニヒルな笑みを浮かべた後背を向け歩き始めた。ひらひらと二人に手を振りながらも前を向いている仁王の背中に向けて、名前も同じようにひらひらと手を振った。
そのほんの少し後に、仁王は手を下げポケットへと突っ込んだ。大きくて重そうなテニスバックは、仁王が歩く度に左へ右へと微かに揺れる。
そんな様をぼんやりと眺めていた名前の頭に、ふと丸井が触れてきた。そっと撫でるように触れ、すぐに離れていった丸井の手。少しだけ残念だと思ってしまう。
「な、なに?」
髪の毛を整えながら、訝しげな表情を浮かべそう問えば、丸井は真ん丸で大きなフーセンガムを膨らませながら、ん、と何かを差し出してきた。
丸井の手のひらにあるそれは、先程仁王がマジックで出した花だった。
ーー確か、このお花は…ジャスミン。
しぱしぱと目を瞬かせながらそれを見つめたあと、丸井へと視線を戻せば、未だ不貞腐れたような顔をしながら大きく口を開いた。
「仁王がこれ、お前の髪に差したんだよ」
「え、仁王くんが?」
だから頭がむずっとしたのか、とそこではじめて仁王が傍らにいた事も含めて合点がいった。
丸井の手のうちからそれを受け取ろうとして、何故かそれをさっと引っ込められてしまい思わず眉間にシワが寄る。ちょっと…、と唇を尖らせながら丸井を見れば、じっとしてろい、なんて言葉を投げ不意に腰をおって顔を近づけてきた。
少しでも動けばすぐにでも唇がくっついてしまいそうな程近い距離に、名前は目を丸くし頬に赤色が差していく。