第7章 赤色ドロップ
そんな名前を背中に隠し、丸井は銀色の髪の男を睨みつけた。
「仁王!こいつにちょっかい出すなよな」
「おーおー、怖い怖い。そう怒りなさんな、なにもせん」
「本当かぁ?…ったく、まーいい。名前、こいつ仁王雅治。同じテニス部仲間でクラスメイトだ」
そう言って銀色の髪の男ーー仁王雅治を指さした丸井。どことなく表情が疲れているところを見ると、名前がくる少し前から仁王となにか揉めていたらしい。
そんな丸井に、大丈夫かな?と首を傾げつつも仁王へと視線をやり、自身のフルネームを述べ、宜しくねと言ったあと、そっと手を差し出した。
その手に仁王の手が重なーーりそうになっその瞬間、
「ワン、ツー、プリー」
そんな不思議な言葉を呟いた仁王。ぽかん、と名前が口を開けると同時に仁王の手からぽんっと小さな花が飛び出した。
「わっ…?!お、お花…!!凄い凄いっ今のどうやったの?!」
「それは企業秘密なり」
産まれてはじめて目の前で見たマジックに、名前は興奮気味に仁王の手を四方からじっと見つめた。しかし、変わったところなどなにもない、至って普通の手だった。
幼い子供のようにはしゃぎ、目を輝かせる名前に、仁王は緩く口元を引き上げニヒルに笑ってみせた。その笑みは、とても大人びていて、思わずじっと魅入ってしまった。
ーー本当に同い年…?やけに大人っぽいけど。
「名前っ!おい名前ってば!」
「うあ…!は、はい!!」
「はいじゃねぇだろい!ったくよー…仁王の顔見すぎなんだよ!いくらこいつの顔が良いからって、んな見つめるな!」
「えっ…み、見つめてなんかないよっ」
慌てて丸井の言葉を否定したが、丸井自身は納得いかないのか不貞腐れたら顔をしながら返事のかわりにフーセンガムを大きく膨らませて見せた。
丸井ブン太はわかりやすく可愛いヤキモチを妬く。愛されてるなぁ、と擽ったくなる。
しかし、気まずいまま補習を受けに行くのは嫌だった。丸井には笑っていてほしいし、そんな丸井を見て自分も笑っていたかった。
名前はそっと丸井の制服を摘み、真っ直ぐ相手を見つめた。
「私は、丸井くんの方がかっこいいと思う」
するりと勝手に口から漏れた言葉に、自分でも驚いた。