第7章 赤色ドロップ
大急ぎでスクール鞄の中に筆箱やら教科書やらノートやら必要であろうものを詰め込み、名前は教室を出て丸井が待っている3-Bの教室へと向かった。
3-Cから3-Bはすぐそこ。お隣同士なのでいつでも会う事ができる。本当は今日、一緒に昼食を取る予定だったのだがテニス部のミーティングがあるとかで断念した。
貴重な昼休みを使って、ミーティングなんて大変だな…なんて思いながら名前は丸井から送られてきた謝罪のLINEを見て思った。
「丸井くーん」
3-Bについた。開けっ放しであったドアからひょっこり顔を出し、教室の中を覗き込めばお目当ての赤色はすぐ見つけることが出来た。丸井は誰かと話しているようだった。丸井の向かいにいる銀色の髪の男が、肩を揺らして笑っている様子が見えた。
名前の声に気が付き、丸井は彼女へと視線をやりーー苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「げっ…名前…」
「ほう…あいつか」
なんで来たんだよ、なんて言い出しそうな表情を浮かべる丸井と、何故か楽しげな笑みを浮かべている銀色の髪の男。
来ては不味かっただろうか?と丸井の反応に狼狽える名前だったが、大股で自分の元までやってきた相手に少しだけほっとする。
「お前…なんでよりもよって…」
「ご、ごめん…来ちゃ不味かったかな?」
「タイミング的にな、不味かったな」
「よう、おまんが丸井の彼女か」
低く甘い声が、するりと名前の耳に滑り込んできた。
思わず声のした方へと視線をやれば、いつの間にこちらまでやってきたのか…銀色の髪の男は丸井を退かし、名前の目前へとやってきた。
綺麗な銀色の髪の毛は少し長くて、後ろでひとつに縛っている。クールな表情、緩く上がる口角にはホクロ。イケメン、と言われるタイプの男の子だな、と名前は思った。
そんな相手から、上から下まで舐めまわすように見られ、居心地の悪さから足を二歩後退させると、おい!、と丸井の怒りに滲んだ声が鼓膜を刺激した。
ぐいっと銀色の髪の男を押し退けて、再度自分の前へと現れた丸井に、名前はほっと安堵の溜め息を吐いた。