第7章 赤色ドロップ
SHRと一限目の時間を保健室で過ごした名前は、その後教室に戻り至って普通に授業を受けた。
しかし、その普通も外側から見た普通である。名前の心中は、決して穏やかなものでは無かった。毛羽立った心が、なにかに触れられる度にざわざわもやもやと騒ぎ出し気持ち悪かった。
しかし、泣くほどではなかった。きっと、丸井と付き合う前の名前であれば泣いていただろう。しかし、名前にとって丸井は日に日に大きくなって、確実に心の支えになっていた。
丸井の優しさに触れる度に、あったかくなるし、嬉しくなるし、照れくさくなった。幸村と接する時のドキドキとは、少し違う気がしたが、それが何故なのかはわからなかった。
だがしかし、今の名前がただひとつわかる事があるとすれば、知り合ってほんの数日しかたっていない丸井ブン太という存在が名前にとって"かけがえないのない人"となっていると言う事だった。
友人よりももっと上、恋人よりももっと上。
上手く説明出来ないが、そんな感じだった。
ーー丸井くん、今日も補習かなぁ…私も補習受けたいなぁ。
教師が黒板に書き終えた退屈な数式を眺めながら、そんな事を思った。補習を受けたい、なんて言ったらそれこそ丸井に変なやつ扱いされそうだったが、それでもいいから補習をーーいや、丸井と居たかったのだ。
そんな事を考えていたら、教師に名指しで回答を求められた。名前は嘆息を噛み殺し、ゆっくりと椅子から立ち上がると黒板の前までいき、その退屈な数式の答えを書いていった。
ーー私の心もこうやって答えがあればいいのに。
白いチョークの粉をぱらぱらと落としながら、名前はぼんやりとそんな事を思った。
時間は意外にもあっという間に流れ、放課後となった。
丸井を待つからと、名前は朋子と別れを告げ教室へと残った。スマートフォンを取り出し、丸井へとLINEを送る。
自分も補習を受けたい、という旨をうって送ってみれば、案の定丸井からは変なやつ、といったメッセージが送られてきた。しかし、教師に聞いてくれたらしく、一緒に受けてもいいともメッセージがきた。
「やった!」
うまれて初めて受ける補習に、名前はわくわくと心を踊らせ拳を天井に向けて突き出した。