第7章 赤色ドロップ
「宮野っ…!付き合っているって、どういう事だい?俺は、返事は待ってくれって今朝言ったじゃないか」
「待ってくれって事は脈ありでしょ?それに、精市くんが返事を待ってくれって言った理由…名前ちゃんなんでしょ?それなら、問題ないよ」
自身の背中に両手を回し、可愛らしく少しだけ前傾姿勢になった宮野。なんだ?と名前たちの視線が彼女に注がれる。その視線を一斉に浴びてから、名前は満面の笑みを浮かべゆっくりと口を開いた。
「だって、名前ちゃん丸井くんと付き合ってるもん」
ざぁ、と。窓から強く風が吹き抜けた。
途端に、服やら髪やらが乱れ、クラスメイトたちは突然の突風に驚き軽く悲鳴をあげていたが、名前たちだけは違った。
背中から吹き付けてくる風を一身に浴びながら、可愛らしく微笑む宮野。チャームポイントの八重歯が覗いていた。傍から見たら、可愛らしいはずなのに、今の名前には悪魔のように見えた。
じりじりと燃やされて心臓が、その時、ほんの一瞬だけ炎が強くなり心臓が焼き焦げてしまうーーそんな感覚に陥った。
がたん、と。派手な音をたて名前は椅子から立ち上がった。その音の大きさに、幸村たちの視線だけではなく、クラスメイトたちの視線も向いた。
しかし、今の名前にとってその視線などどうでも良かった。
机に手をついていた自身の手は、面白いほどに震えていた。ぼんやりとそれを眺めていた名前はゆっくりと宮野へと視線を流した。
「っ…な、なによ」
氷のような冷たく、据わった名前の目。その冷たい瞳の中に閉じ込められた宮野は声を上ずらせそう言葉を吐き出した。ぶるりと身震いした事を、宮野自身気づいていなかった。
身震いした相手を一瞥した名前は、嘆息を漏らすと緩く首を左右に振った。
「ごめん、なんでもない。…なんか、気分が悪くなったから私保健室行ってくる。朋子、先生に言っておいて」
「あ、うん…分かった」
朋子の返事を聞いてから、名前はそっと教室を出ていこうとしたーーが、
「名前、待って!」
幸村の切羽詰まった声が、それを制した。