第7章 赤色ドロップ
ドア付近で誰かと話しており、それが終わったのかにこやかに微笑むと教室の中へ入ろうとしてーー何故か、視線がこちらへと飛んできた。
視線が絡み、どうしていいか分からず慌てて逸らしてしまった。なんて嫌な奴なんだ、と名前は自分自身を責めた。自分が同じ事をやられたとしたら、傷つくのは目に見えてるのに。それを相手にやるなんて、最低だ。
「おはよ、名前」
鈴を転がしたような愛らしい声が耳に滑り込んできた。朋子の声だ。
反射的顔をあげ朋子へと視線を流す途中で、視界の端に幸村の姿が見えた。もしかしたら、名前自身が無意識に追っているのかもしれない。
「おはよう、朋子」
視線をしっかりと朋子へと注ぎながら、名前は朝の挨拶をした。きちんと笑みも浮かべられているだろう。
「おはよう精市くん!」
「…おはよう、宮野」
そんな挨拶が、隣から聞こえてきた。名前の目の前にいる朋子は呆れたような表情をしながら、ちらりと視線を横へとやって、すぐに戻した。
ふっ、と鼻で笑った。朋子にしては珍しく、人を小馬鹿にした笑い方だった。
その笑い方が聞こえたのだろう、ちょっと…なによ?、と不機嫌そうな宮野の声が横から投げられた。名前と朋子の視線が、自然とそちらへと向く。
視線の先には、腕組みをし不機嫌そうに眉間にシワをためた宮野と、複雑そうな表情をした幸村がそこにいた。
「別に?何も言ってないじゃない」
顔にかかる髪の毛を、手の甲で後ろに流しながら朋子はそう言った。口元はふてきに上がっている。
「あんた今、鼻で笑ったでしょ!私今聞こえたんだから!」
「さー…どうだったかな?」
「とぼけないでよ!何がおかしいのよ、えぇ?!言いなさいよ!」
「宮野、落ち着きなよ。ただの偶然かもしれないだろう?」
「だって…精市く…あぁ、分かった。私が精市くんと付き合い始めたからあんた達嫉妬してるんだ!特に名前ちゃん、ねぇ?そうでしょ?」
人を小馬鹿にするような、粘っこい喋り方だった。毛羽立った心を、無理矢理撫でさするような、そんな喋り方に名前はぴくりと片眉を跳ねさせた。