第7章 赤色ドロップ
そんな名前の状況など知るよしもない宮野とその友達は尚も楽しげに話を続ける。
「でっしょー?もう本当朝連絡来た時飛び跳ねたもん!嬉しくて泣いちゃった」
「そりゃそうだよね~…前から良いな良いなって言ってたもんね~本当おめでとう!今日お祝いにどっか食べいこ!」
「あー、ごめん、今日は精市くんとデートの約束あるから!精市くんの部活終わったら行ってくるね♡」
「うー!良いなぁ良いなぁ羨ましい!」
黄色い声を出しながらはしゃぐ二人に、名前の思考は鈍くなる一方だった。
ーー幸村、くんが…宮野さんと…?
どくん、と。また心臓が嫌な跳ね方をした。
手の内にあるスマートフォンをギュッと握りしめ、名前は揺れる瞳でただじっと机を見つめた。ぽた、と嫌な汗が落ちたが、気にならなかった。
昨日の夜と、今日の朝きた幸村の電話は…つまり、そういう事なのだろうか?
宮野とお付き合いをするから、と報告の電話だったのだろうか?
じりじりとした痛みが心を襲う。まるで心臓を下から火あぶりされている気分だ。その痛みに泣きそうになったが、ふと名前はある事に気がついた。
自分が…泣く事も、嫉妬をする権利も、無いということに。
幸村は名前が好きで。
名前も幸村が好きで。
でも、それはほんの少し前の話で。
今現在名前は丸井と付き合っている。そんな奴が、いったいどうして傷つき、嫉妬をすると言うのか?勘違いも甚だしい、まるで自分を悲劇のヒロインとでも思っているのか?そう、もう一人の自分が、自分に問いかけてくる。
ぎゅっと、強くスカートを握りしめた。名前はゆっくりと目を瞑り、深呼吸をひとつ落とす。気分がほんの少しだけ落ち着いた気がした。
それから、名前は朋子が教室へとやってくるまでの数分、スマートフォンを無心で弄っていた。なにも聞かないよう、小難しいニュースを一字一句余さず読んだ。
知りたくもないニュースが頭に叩き込まれ、名前は内心でそっと溜め息を吐いた。
と、その時。朋子が教室へと入ってきた。視線が絡み、どちらともなく手を振れば、その少し後に幸村の姿が見えた。