第7章 赤色ドロップ
「全然平気、気にしないで。どうしたの?」
『いや、一緒に登校してぇなーと思ってさ。部活始まっちまったら、登下校時間合わなくなるからな』
「あーなるほど」
確かにテニス部の朝練は早いし、放課後は遅くまでやっている。丸井の言葉に納得した名前はうんうんと頷きながら、へらりと笑みを浮かべた。
「じゃあ、すぐに支度するね。待ち合わせ何処にしようか?」
『あー、俺がお前ん家まで行くから待ってろい。15分くらいあれば支度出来るか?』
「うん、大丈夫。制服も髪もバッチリだし、後は歯磨きして終わりかな」
『ん、りょーかい。んじゃ、また後でな』
そう言った丸井の言葉の後に、またね、と言葉を掛けてからそっと通話終了ボタンをタップした。
「っし…っと、早く歯磨ーーきっ!?」
スマートフォンから顔を上げ、階段から腰をあげようとして、思わず間抜けな声を上げてしまった。
階段横で父親が涙を流しながら名前の事をじっと見ていたからである。いつからそこに居たのか…全く気が付かなかった。
「お、と、う、さ、ん!今の話盗み聞きしてたでしょ~?!最低!!馬鹿ー!」
「名前…お、お父さんは心配で…」
「だからって盗み聞きなんてする事ないでしょ!聞いてくれればちゃんと答えるし!」
彼氏との会話を盗み聞きされた事により、羞恥と怒りが混ざり、父親を指さし怒声を発した。
その怒声を真正面から浴びた父親は、滝のような涙を流しつつ、おろおろと狼狽える。どちらが子で、どちらが親だかまるで分からない光景だ。
「って!こんなことしてる場合じゃない!早く歯磨きしてこないと…!」
はたと我に返った名前はぱたぱたと足音をたてながら洗面所へと向かった。
廊下に残るは相変わらず滝のような涙を流す父親とーーそんな父親を回収しにきた母親だ。
「あぁ…!名前っ…!お父さんは…お父さんはっ…!」
「いい加減になさい、お父さん。嫌われるわよ」
「うっ…!!」
母親のとどめの一撃により、がくりと項垂れた父親はすごすごとリビングに戻り身支度を整えると重い足取りで家を出て会社へと向かったのであった。