第7章 赤色ドロップ
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次の日の朝、火曜日。
名前は朝食を取りながら、昨晩した不二との電話の内容と…途中電話をしてきた幸村の事を考えていた。
焼きたてのパンに齧り付きながら、あの四人の話と…幸村の事を交互に脳裏に浮かべては溜め息を吐けば、向かいで同じようにパンに齧り付いていた母親から怒られてしまった。
確かに、朝から溜め息をつくのは良くないな、と名前は吐き出した溜め息を戻すかのように大きく息を吸い込んで…ゆっくりと吐き出した。
果たしてこの深呼吸に意味があるのかはよく分からなかったが、ようは気の持ちようだ!と名前は大きく頷いてから、またパンに齧りつこうとした。
すると、テーブルに置いておいたスマートフォンが不意に震え始めた。着信だ。
朝から誰だろう?と首を捻りながらスマートフォンを覗きこめば、幸村くん、と表示されている。どくん、と勝手に心臓が跳ね上がった。電話が来て嬉しくて跳ねたのか、嫌なことを思い出して跳ねたのか、よく分からなかった。
ただ分かることは、出たくないと言うことだけだった。
名前はテーブルの上で騒がしく震えるそれから視線を外し、残りのパンを大きな口で齧り付いた。母親が電話に出なくていいのかと問うてきたが、適当に返事をして牛乳を流し込んだ。
すると、震えは止まり、自然と入っていた力が体から抜け椅子の背もたれにもたれかかった。が、不意にまた震え始めたスマートフォンに、ギョッと目を丸くした。
また幸村くんから?と焦りつつスマートフォンを覗き込めば、丸井くん、と表示されている。ほっと、安堵の溜め息を吐きスマートフォンを手に取れば、彼氏?、と母親が問うてきた。
その問に、うん、とだけ答えて通話ボタンを押し耳に宛がえば、派手になにかがひっくり返った音が聞こえてきたが無視をした。父親が驚いて椅子からひっくり返ったのだ。
許さんぞ、やらなんやら呟く父親に軽く溜め息を吐いてから椅子から立ち上がり、もしもし、と声を出した。
リビングを出て2階へと続く階段の二段目で腰を下ろした。
『はよ、悪いな、朝から電話して』
いつもと変わらない丸井の声に、名前は自然と頬が緩むのを感じた。