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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



『泣くことはないよ。名前、何処が好きとか分からなくても相手を想う気持ちがあるなら、それは立派な大好きなんだよ』
「で、も…」
『例えば…そうだなぁ。幸村と居る時、幸村と話す時、幸村に見つめられる時ドキドキしたりするかい?』

 不二の言葉を聞き、名前は脳裏に幸村を浮かべてみた。
 幸村と並んで弁当を食べた時、幸村と他愛もない話をした時、柔らかな笑みで見つめられた時。

「…うん、する。凄く、ドキドキする」
『ふふ、そう。じゃあさ、相手が笑った時自分はなんだか嬉しくなって、同じように笑ったりとか、ない?』
「うん、ある」
『ほら、そういう事だよ』
「え、なに、どういう事?分かんないよ。もっとわかりやすく言って!」

 まだ明確ではない、淡い形の答えを目の前にぶらつかせる不二に、名前は焦れたようにそう言った。
 気づけば涙は引っ込んでいた。
 早く教えてよ、とテーブルを軽く叩き明確な答えを求める名前に不二はくすくすと笑いながら、本当に頭が弱いんだから…なんて呟いたあと、そっと言葉を続きを紡ぎ始めた。

『だからさ、明確に言葉にあらわさなくても名前の心が正直に幸村の事を好きだって思ってるし、感じてるんだよ。幸せだね、幸村は。名前にこんなに想われてるなんて。羨ましいよ』
「私の、」

 ーー心、が?

 不二の言葉を脳と心でゆっくりと噛み砕き、味わい、飲み込ませながら、名前はそっと、自分の胸に手を当ててみた。
 たしかに、幸村の何処が好きなのか、言葉として明確に言い表せなかった。しかし、心では、幸村の事がこんなにも好きだと叫んでいる。ドキドキしたり、嬉しかったり、悲しかったり、楽しかったり。
 それは、友人に対して味わう感情とは少し違うことぐらい、頭の弱い名前でも理解する事が出来た。いや、不二がそれを理解させてくれた。
 幸村の笑顔を脳裏に浮かべれば、ドキドキするし楽しくなるし、宮野と話す幸村を浮かべれば、もやもやするし悲しくもなる。
 淡い形をしていた答えが、明確な形を表した。
 答えを掲示されてしまえば、なんだこんなに単純明快な事なのかと名前は納得がいった。

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