第7章 赤色ドロップ
だからこそ幸村精市から想いを寄せられ、戸惑いつつも自身も幸村の想いを不二に諭されどうすれだいいのかと悩んでいた矢先ーー…こんなに拗れてしまうとは思ってもみなかった。
幸村は名前が好きなのに、宮野を見ていて。
名前は幸村が好きなのに、丸井と付き合って。
丸井は名前が好きだと言って、幸村の事が好きでも構わないからお試しでいいから付き合ってくれ、言って。
恋愛初心者の名前には複雑過ぎて訳が分からなかった。何故、お互い好きだと言うのにこうもいかないのか。分からなかった。
ただ、あの時の名前は嫌だったのだ。
宮野の方を向いたままの幸村に告白しても、その後なにも上手くいかないような気がしたのだ。きっと、あの状態のまま幸村に告白しても、名前へとたまに愛を囁いて、キスをして、それでまた宮野の方を向いてしまう。
それでは、遅かれ早かれあの時のように自分が癇癪を起こして終わっていたに違いない。
『…そう、まさか丸井と付き合うとは思ってなかったな。正直驚いたよ』
本当に予想していなかったのだろう、不二は少しだけ掠れた声でそう呟いた。
「…うん、私もいまだに驚いてるくらいだもん。そりゃ驚くよね。…それにしても、今日は色んなことがあって疲れちゃったよ」
『ふふ、だろうね。まさか1日でそんな事になるとは、誰も予想出来ないよ』
「だよね~……丸井くん、私なんかの何処が良かったんだろ」
ぽつりとそう呟いた。タオルドライにより半分ほど乾いた髪の毛に触れる。もう乾かしてしまおう。そう考え、スマートフォンを膝上からおろしベットへと置いた。
腰掛けていたベットから立ち上がるとテーブルに用意しておいたドライヤーに手を伸ばし、ついでもベットの上のスマートフォンにも手を伸ばしテーブルへと置く。
コンセントを差して、鏡を自分の目の前にセットすれば準備OKだ。テーブル前にある座椅子へと腰を下ろすと、ふと鏡を見てみた。
お世辞にも可愛いとは言い難い顔。加えて疲れたような表情をしていて尚のこと酷い気がする。
本当に不細工だなぁ、なんてぽつりと心の中で呟けば、名前、なんて不二の声が聞こえてきた。