第7章 赤色ドロップ
それから時間をかけて、名前は全てを話し終えた。
幸村の悪口を言っていた彼女の事。その事から幸村に告白された事。何故かいつの間にか幸村と、悪口を言っていた彼女が仲良くなっていた事。デートをした事。そのデートで、相手を優先して名前を置いて彼女の元へと走っていた事。結局戻って来なかった事。何度も話しかけたのに自分ではなく彼女を優先した事。
朋子にも話さなかった、幸村へのもやっとしたことも…全部、全部話した。
愚痴を吐いている最中、名前の頭の中は幸村精市でいっぱいだった。
笑っている顔、困った顔、少し怒った顔、意地悪な顔、小言を言う顔、花が枯れてしまって悲しい顔、テニスをしている時の真剣な顔ーー自分を見据え、真剣な瞳の中に自分を閉じ込め、大好きだと告白してきた顔。
全部、全部、全部、好きで。幸村精市が、大好きで。
名前は自分自身の事が分からなくなった。デートの時やその後の学校の時、幸村の言動に深く傷つき、ほんの少しかもしれないが、それでも名前は確実に幸村のことを"嫌い"だと思ってしまったのに。
それでも、そのほんの少しの嫌いがあっても、好きという気持ちの方が大きいせいか未だ幸村の事が大好きだ。いっその事、なにをされても平気なほど盲目的な愛だったら楽なのに、と。そんな事を思った。
泣きじゃくりながら幸村への愚痴を零す名前に、不二はただいつものように落ち着いた様子で相槌をうつ。まるで、世間話でも聞いているように。
それでも、不二のその聞き方は決して不快になるものではない。その聞き方は、相手が畏まらないように、相手が話しやすいように
、と不二なりの優しさなのだ。
だからこそ、笑っても悩みや考え事が吹き飛ばなかった時は不二に聞いてもらっていた。
不二周助は苗字名前にとって、本当にヒーローなのだ。
不二はいつだって名前の事を助けてくれた。遠く離れた今だってそうだ。話を聞いてくれて、アドバイスをしてくれるし、励ましてもくれる。
青学にいた頃は、恋の悩みとは無縁で毎日不二と他愛もない話をしたり、テニス部の面々とたまに遊びに行ったり。