第7章 赤色ドロップ
二枚だけクッキーを口にした柳生。四枚の平皿の上にはまだ数枚ずつクッキーが残っている。
「丸井くん、ちょっと待っててね」
「あ?おー分かった…って、お?なんだよクッキーあんじゃん!もーらい…」
呑気にフーセンガムを膨らませていた丸井であったが、平皿に乗っているクッキーを見つけ満面の笑みを浮かべながら手を伸ばした。
が、その手を名前に取られ、遮られてしまう。
「ダ、メ!これ柳生くん用だから!」
「柳生用ぉ?」
「私…ですか?」
唇を尖らせあからさまに不服そうな表情を零す丸井の言葉に、名前は大きく頷きながら残り一枚となっていたラッピング袋の中に残りのクッキーを全て詰め込んだ。
自分の名前が出たことにより不思議そうな顔をした柳生であったが、まだ二枚しか食べてなかったでしょ?、という名前の言葉に合点がいったのか、申し訳なさそうにしつつも礼を述べてきた。
しぼんでいたラッピング袋はクッキーを詰められた事により膨らみ動物の顔の輪郭が見えた。
先端が二股に別れているそれを器用に手早く結べば、あっという間に可愛らしい小動物が出来上がった。
「はい、柳生くん」
そう言って柳生へとそれを差し出せば、ありがとうございます、と言う言葉と共にクッキーを受け取った。
自身の手に渡ったクッキー。可愛らしいラッピング袋を見つめた瞬間、柳生は僅かに目を見開いた。
「これは…」
「ふふ、可愛いでしょ」
「はは、ええ…とても可愛らしいですね」
そう言ってラッピング袋を指先で撫でた柳生。彼の手の内に渡ったそれは、ハムスターの顔が描かれたラッピング袋だった。
名前と柳生、二人は顔を見合わせ楽しげに笑い合えば、私のクッキーは…ありませんの?、と小さな小さな声で須野は呟いた。
ーー真凛ちゃん可愛い…!!
恥ずかしそうにもじもじと指先同士を合わせ、唇をむにむにと動かす須野、名前は思わず口に手をあて悶えていたが、いかんいかんと咳払いをひとつ落としてから笑みを浮かべた。
台の上に置いておいたクッキーの詰まった兎と熊のラッピング袋を掴み、兎を須野へ、熊を丸井へと手渡した。