第7章 赤色ドロップ
「なんでお前がここに来るんだよ!つうか廊下はしるなってさっき俺に言ってただろい!」
「私は名前さんに用があるんですの!早く退いてくださいまし!というか貴方!さっき私が言ってたこと聞こえていたんですのね?!」
ぎゃーぎゃーと騒がしい男女のふたつの声と、我先にと調理室の中へと入ろうとしてお互いを邪魔をする丸井ブン太と須野真凛に、名前と柳生はしぱしぱと目を瞬かせた。
何故二人が仲良く調理室までやって来たのかは分からないが、とりあえず二つの足音は丸井と須野が奏でていたものだと分かった瞬間、名前の体からはどっと力が抜けていった。
「お前いい加減に…って、あー!おい名前!ちっと柳生に近すぎじゃねぇか!?」
するりと先に調理室へと入った須野を恨めしげに見ていた丸井だったが、名前と柳生を視界に入れた途端、大きな声でそう叫んだ。
ぷるぷると震える右手で二人をさし、離れろい!、と吠えれば二人は我に返ったように勢いよく距離をとった。
指摘されるまで気が付かなかったが、お互い足音に集中していたせいか自然と寄り添うかたちとなっていた。ごめんねごめんね、と焦りつつ謝る名前の頬はほんのり赤く、つられるようにして、柳生のほほも赤くなっている。
そんな二人が面白くないのか、丸井はジト目を二人に向けたあと、わざとらしく柳生と名前の間に入ってからゆっくりと口を開いた。
「悪い名前、すげー待たせちまった。…で、なんで柳生と居るんだ?ん?」
「ま、丸井くん顔が近い…」
謝罪の言葉を延べたかと思えば、ジト目のまま顔を近づけてきた丸井に名前は頬を引き攣らせ両手を顔の前にやり、ガードした。
わかり易い丸井のヤキモチに、名前は擽ったい気持ちなりつつ、柳生へと視線を向けた。
そう言えば、何故柳生がここに来たのか理由を知らなかったのだ。名前は言葉の代わりに視線で柳生に問うてみた。すぐにそれを察した柳生はいつものように紳士的な笑みを浮かべ、見回りをしていたんです、と言葉を紡いだ。