第7章 赤色ドロップ
しっかりと味わうように丁寧に咀嚼する柳生を見て、ふとハムスターみたいだな、などと思って名前は小さく笑ってしまう。
そんな名前の様子に気がついた柳生は、クッキーを飲み込むと首を傾げ、どうしました?、と問うてきた。
「ふふっ…ごめん。柳生くん、なんかハムスターに似てるなって思って」
「ハムスター…ですか?初めて言われました」
「そう?なんか食べてるとこ、ハムスターみたいで可愛いのに」
「かわっ…んんっ、苗字さん、あまり男性に可愛いと言うのは…」
頬を赤くし、咳払いをひとつ落とした柳生に、さすがに男の子に可愛いは失礼か…と名前は反省し謝罪の言葉を投げれば、相変わらず赤い頬のまま小さく、いえ…、と述べた。
と、そんなやり取りをしていると、ふと廊下から忙しない足音が聞こえてきた。驚き目を丸くし、お互いの顔を見合わせた柳生と名前。
足音は段々と調理室へ近づいてきて、二人の眉間にはシワがよる。足音がふたつ聞こえる。
あまりにも忙しなく聞こえてくるその足音ふたつは、何故かぴたりと調理室の前で止まった。ぎくり、と名前の体が跳ねる。時刻は間もなく19時になろうとしていた。外はもう既に真っ暗で、校舎に残っている生徒は少ないだろう。
こくり、と名前の喉がなる。
ーーゆ、幽霊…とかじゃないよね?
思わずそんな考えが名前の脳裏に浮かんだ。
じわりと浮かぶ冷や汗と、少しずつ顔を出してきた恐怖心から無意識のうちに隣にいた柳生の制服を掴んでしまう。その事に驚き、名前を見た柳生だったが、相手の視線に気づいていない名前は未だドアの方へと向いている。
「……」
ほんの少し、柳生の頬に赤色がさした。しかし、当然の事ながらドアの方へと意識が向いている名前はその事に気が付かなかった。
がっ、と。そんな音がドアから漏れ聞こえた。
名前の体が固まる。雷の時と同様微かに震えている。
そんな彼女を見て、柳生の手がそっと名前の肩に伸びたときーー勢いよく調理室のドアが開かれ、派手な音と共に赤色と金色が二人の視界に飛び込んできた。