第7章 赤色ドロップ
逃げるように視線を横に流し、台の上に乗っている皿へと視線を移す。
須野に食べてもらおうかと悩んでいたものだが、この時間になっても来ないという事はもう来ないのかもしれない、と名前は思い台の元まで歩を進める。その様子を、柳生が黙って目で追っている。
それぞれの平皿の上に乗っているクッキーたちをぐるりと見渡しあと、柳生へと視線を向ければすぐに視線は絡んだ。
「柳生くん、お腹空いてる?良かったら、クッキー食べない?」
「クッキーですか?お腹は空いていますが…頂いていいのでしょうか」
「勿論!色々迷惑かけたお礼に、どうぞどうぞ」
満面の笑みを浮かべた名前に、柳生もつられ笑みを浮かべた。やっぱり、綺麗な笑顔だ。そう、名前は思った。
先程腰掛けていた椅子に二人は腰を掛けた。どうぞ、と名前が平皿を柳生の前に引き寄せれば、とても美味しそうですね、と言葉を零し丁寧に手を合わせいただきますをしてからクッキーを食べ始めた。
柳生の口の中に入ったプレーン味クッキーを見届けてから、名前はスクール鞄の中に入っていた水筒を取り出した。
「柳生くん紅茶飲める?」
「えぇ、飲めますが」
「良かった、はいどうぞ」
水筒のカップを柳生へと差し出した。中には温かい紅茶が入っている。
「これは…嬉しいですね。ありがとうございます。クッキーに紅茶はとても合いますから」
「ね、珈琲とかもいいけど、どっちかって言ったら私は紅茶が好きなんだ」
「なるほど、そうなんですね。ん、美味しいです。クッキーとよく会いますね。このクッキーもとても美味しいです」
「へへ、良かった~」
柳生の言葉に顔を綻ばせた名前。自身も一枚だけクッキーをつまんだ。お腹がいっぱいなせいか最初に食べた時の感動のようなものはあまり無かったが、変わらず美味しかった。
柳生の綺麗な手が、抹茶味のクッキーを摘んだ。流れるように口元へと運んでいく。
「そう言えば柳生くん部活は?」
「部活は18時で終わりました。風紀委員の仕事がまだ残っていたのでわがままを言って1時間早く終わらせてもらったんです」
「そうだったんだ。お仕事は終わったの?」
「いえ、まだ少し残っていますが明日には終わりそうです」
そう言った柳生の口の中に、抹茶味のクッキーは消えていった。