第3章 白色ドロップ
数歩足を動かし、ドアの向こう側の世界へと辿りつけば、そこには綺麗な花々が置かれていた。屋上の隅の方だが、プランターという家の中で咲き誇る花々はどれも綺麗で見惚れてしまう。
そこでふと、今朝見た花々を思い出した。
四角くゴツゴツしたレンガの家の中で、色とりどりの花々が水の粒をその身に受け、キラキラと輝いてる様はとても綺麗だった。
「このお花、幸村くんがお世話してるの?」
しゃがみこみ、凛と背筋を伸ばし咲き誇る花を間近で眺めながら幸村にそう問うてみれば、僅かに驚いたような表情を零してみせた。
「そうだけど…どうしてわかったんだい?」
「なんだろう。なんとなく?かな。なんか…朝見た花壇の花に似てたから」
「え?けど、ここのプランターにある花は花壇と同じ花はないけど…」
「いや、そうじゃなくて。なんて言うか…あぁ、そうだ。幸村くんに似てるんだよ、花壇のお花も、ここのプランターのお花も。幸村くんがしっかりお世話してるから同じように綺麗にどっちも咲いてるんだな、って。犬が飼い主に似るってのと同じで、世話をしたぶん花もその人に似るんだな、って」
見たこともない桃色の花の花弁を間近で眺めながら、名前はつらつらとそう述べたあと、ふと我にかえった。
ーーなんという小っ恥ずかしいこと言ってるんだ私は!!
思わず頭を抱えたくなる衝動を抑えながら、そっと後方を見やれば、幸村精市は目を丸くして名前をじっと見つめていた。名前はこの時、これほどまでに穴があったら入りたいと強く思ったことはなかった。
「ご、ごめん…おかしな事言ってしまった…忘れてほしい…」
今にも消え入りそうな小さな声でそう言うと、幸村は照れくさそうに頬をかきながら、忘れるなんて勿体無いじゃないか、と頬を緩めた。可愛らしい笑い方だ。
幸村のほんのり赤い頬につられ、名前の頬も熱くなってくるのを感じた。
「俺が世話した花が、俺に似てるなんて初めて言われたよ。嬉しいな。ありがとう、苗字さん」
「え?あ、いえ…こちらこそありがとう?」
「ふふっ、なんで君がお礼を言うんだい?」
「な、なんでだろうか…」
くすくすと笑う幸村に、名前の頬は熱くなりっぱなしだった。