第3章 白色ドロップ
「驚いた。急に笑ってどうしたんだい?」
目を丸くした幸村がしぱしぱと目を瞬かせながら問うてきた。
どうやら心の中で豪快に笑ったつもりが口に出して笑っていたらしい。
海賊のように豪快に笑った名前に、幸村は最初のうちこそ驚いたようだったが、笑いのツボに入ってしまったのか口元を手で抑え声を出して笑い始めた。
くすくすというあの綺麗な笑い方ではなく、あはは、なんて本当に楽しげに笑う幸村のその声は酷く心地良いものだった。
「ご、ごめんね…心の中で笑ったつもりが…口に出ちゃったみたい。あはは…」
恥ずかしさに上気した頬をかきながらそう控えめに言えば、心の中で?、と幸村は不思議そうに首を傾げて見せた。
「あぁ、うん。昔からね、悩んだり考えたりするのが苦手だから笑って誤魔化したりしてるんだ。私の癖みたいなものなの」
「へぇ…。じゃあ、苗字さんは今なにか考えた事をしていたのかい?それとも、悩み事?」
「あ……いや、それは」
柔らかい口調で幸村に指摘され、名前は些か目を見開いた。
人といる時に…しかも話している時に、考え事や悩み事などしていました、なんて失礼にも程がある。
戸惑い言葉を失う名前に、ドアからすり抜けるようにしてやってきた春風が体を撫でつけてきた。
ふわりと風が二人を包み込み、制服や髪の毛を揺らす。
春風にあそばれた幸村精市は、やはりとても綺麗だった。
「ふふ、ごめん。意地悪だったね。さぁ…行こうか。あまりここで話をしていると愛卯が煩いから」
そう言って長い足を進め、ドアの向こう側へと歩いていった幸村の背中を名前はぼんやりと眺めた。
幸村精市という男は、なんて事無い動作ひとつひとつがとても絵になって、思わずずっと見ていたくなる。出来ることなら、少し離れたところで見目麗しい朋子と幸村を眺めていたい。
ドアの向こう側で向かい合って話す二人は、まるでそこだけが違う世界かのように輝いて見えて思わず見惚れていた。
すると、笑いあっていた二人が不意に名前へと視線を寄越し、二人で手招き此方へ来るようにと促され、むず痒い感覚に戸惑いながらもそちらの世界へと足を踏みいれた。