第7章 赤色ドロップ
暫くして雷の予兆であり余韻でもあるごろごろという唸り声は収まり、名前はほっと安堵の息を吐き、そっと顔をあげーー固まった。
「なっ!?あっ?!えっあっわっ…?!」
意味のない言葉のなりぞこないものを、口からひっきりなしに溢れさせながら勢いよく離れ二三歩足を後退させ柳生と距離をとった。しかし、それが不味かった。
名前の後ろにあった椅子が、障害となり後退する事を妨げーー結果、名前は派手に後ろから転けてしまった。
「苗字さんっ大丈夫ですか?!」
派手な音をたて、後ろ向きで転んだ名前にギョッとした表情をあらわした柳生は慌てて駆け寄った。
横たわる名前に手を差し伸べようとした柳生だったが、ふとある事に気が付き、ぴしりとまるで石のように固まってしまった。
「いったた…ごめん、私さっきから柳生くんに迷惑ばっかりかけて……って、柳生くん?どうしたの…?」
顔、真っ赤だけど。そんな名前の指摘の言葉に、頬どころか顔全体を赤く染め上げている柳生は、ふと我に返ったように顔を背け片手で自身の顔を覆った。
「苗字さん…その、申し上げにくいのですが、」
「うん?うん、なに?ごめん、私やっぱ気に触ることしちゃったかな?」
「いえ…そうではなく…その、下着が……みえて、います」
「えっ」
相変わらず赤い顔を手で覆ったまま、小さな小さな声で言われたその言葉に、名前はびくりと体を震わせ間抜けな声をあげた後そろそろと視線を下げた。
最悪だ、も。名前はこの世の終わりのような表情を零した。
慌てて体制を整え、何故か床に正座をしてからひとつ咳払いをひとつ落とした。そこでやっと、柳生の視線が名前へと戻る。なんとも気まずい空気だ。
名前はもう一度咳払いを落としたあと、粗末なものを…すみません…と、先程の柳生の声よりも小さな声で謝罪を述べた。身を縮こませ、今にも消えてしまいたいと名前は思った。
「いえ…大丈夫です、なにも見ていません」
お互いそれが嘘である事は分かっているのだが、それでも柳生は嘘をついた。女性に恥をかかせてはいけない、という柳生の紳士的な気持ちからついたものだろう。