第7章 赤色ドロップ
握られた手にほんの少し頬を緩ませ、そっと手を握り返した。やはり、安堵する。これは、自分の手を握っている手が柳生くんだからだろうか?そんな事をふと考えた。
なにかに怯えている者が、冷静な者を見ると安心する。
雷に怯える名前と、普段と変わらず冷静な柳生。まさしくそれだった。
「…ごめんね、気を使わせちゃって」
ごろごろと唸り声をあげ続けている空に怯えながら、名前はそっとそう呟いた。
とん、とん、とん。
名前の足が、床を小気味よく叩く音が小さく響いた。その度にくっついたままの膝小僧同士がすれ、柳生は擽ったそうに笑いながら口を開いた。
「いえ、気になさらないでください。私がしたくてした事ですから。怯える女性は放っておくなんて、出来ませんから」
「わぁ、柳生くんは紳士だね?かっこいい」
「えっ…かっこいい、などと…そんな…」
名前のストレートな褒め言葉に、柳生は一瞬目を見開いたが、すぐに目を伏せほんのりと頬を上気させた。褒められなれていないのだろうか?照れている様子が見てとれる。
そんな相手の横顔をじっと見つめて、ふとある事に気がついた。眼鏡越しから見る柳生の目が、とても綺麗だと言うことに。そして、まつ毛が長い。
真隣にいるからこそ出来た発見だった。
相手の一面を新しく見つけることが出来た事に、名前は嬉しくなり再度口を開こうとした時だった。
先程までごろごろと唸っていた雷の音が止んでいて、自分でも気付かぬうちに安心しきっていた名前の耳に、先程とは比べ物にならないくらい大きな雷の音が耳をつんざいた。
「ひっ…?!」
「うわっ…!?」
思わず握るようにして立ち上がった名前の足は、情けないことにもつれてしまい柳生の胸板へと飛び込む形になってしまった。
大きく鳴り響いた雷の音よりも、突然自身の胸板に飛び込んできた名前に、柳生は目を大きく見開き硬直してしまう。
背中に腕を回し、隙間がないくらいきつく柳生を抱きしめてしまっている名前だが、頭の中は雷への罵詈雑言でいっぱいだった。
柳生に抱きついているという自覚がなかったのだ。