第7章 赤色ドロップ
「そ、そんなに怯えてた?」
恥ずかしさに自然と熱くなる頬を片手で抑えながらそう言った名前に、柳生はゆっくりと頷いた。その時の事を思い出しているのか、少しだけ眉を下げ苦笑気味な表情に変わっていた。
相手のその反応に恥ずかしさが頂点まで達したのか、名前は小さく肩を落とし頭を垂れた。
と、その時ふと自身の手が柳生の服を控え目に摘んでいる事に気がついた。吃りつつも謝罪の言葉を述べながら手を離せば、その途端またごろごろと空から嫌な唸り声が名前の耳に届き、怯えてしまう。
しかしまた抱きつくという失態はしてはいけない、と名前は耳を塞ぎ、そっと目を瞑ろうとした時だった。かたん、と傍らから音がして、反射的にそちらへと視線を投げれば何故か柳生が椅子に腰掛けていた。
ぱちり、と視線が絡んで思わず体が跳ねあがり、名前の膝小僧とズボン越しの柳生の膝小僧が、こつり、とぶつかった。あ、なんて小さく声をあげ、ぴたりとくっついた膝小僧同士を離そうとした瞬間、視界に何かが映り込んできた。
柳生の手だ。
幸村や丸井と同じ、パワーリストをつけた手首から伸びるその手は細くて長くて、しかし何処か男らしさを感じさせてとても綺麗だ。
しかし、何故柳生が自分に向かって手を差し出しているのか分からなかった。名前は首を傾げ柳生へと視線をやれば、相手は困ったように苦笑を浮かべて見せた。
「手を握っていれば雷への恐怖心が少しは和らぐかと思ったのですが…やはり嫌ですかね、手を握ると言うのは」
そう言いながら、差し出していた手を引っ込めようとするものだから、名前は慌ててその手を両手で掴んだ。握った両手から、じんわりと柳生の手の熱が伝わってくる。
「あっご、ごめ…」
咄嗟のこととは言え、両手で掴んでしまった事に恥ずかしくなり、謝罪の言葉を述べながらそっと片手を外した。
ただ掴むだけだった柳生の右手に自分の左手を添え、そっと握れば、きゅっと、相手が力をいれ握ってきた。じんわりと感じる柳生の手のあたたかさに、名前は先程感じた安堵を再度感じる事が出来た。
人間という生き物は、恐怖に心が囚われている時に、人の熱に触れると安堵するものらしい。