第7章 赤色ドロップ
しかし、名前は開かれたドアの存在に気づいていない。
相変わらず強く耳を塞いだまま、今度は光さえも見たくないと強く目をつぶっているためか、ドアを開いた侵入者がそっとドアをしめ名前の近くへと歩を進めていた事に気が付かなかった。
ーー早く収まれ早く収まれ早く収まれ…!
両耳を己の手で強く抑えながら、必死で何度もそう心の中で呟いた。
と、そんな時ーー不意に名前の肩に誰かがそっと触れた。
「うぁっ…あばっ!」
雷の方にばかり気が向いていた名前は、肩に触れてきたその手に驚き、なんとも間抜けな声をあげてしまった。
なんなんだ!とばかりに半泣きになりながらも、反射的に顔だけ後ろへと向ければ、そこには大きく目を見開いた柳生がそこにいた。
軽く肩に触れただけの手を、引っ込めることも忘れただかたまり…柳生は名前の顔を見つめたままほうけていたし、名前自身もまさか柳生がここに来るとは思っていなかった為間抜けな表情を晒してしまっていた。
しかし、それもそんの数十秒のこと。
柳生ははたと我に返り、なにか言葉を紡ごうと口を開きかけたその時だった。耳を劈くような大きな雷の音が両耳を塞ぐ名前の手をすり抜けて鼓膜を激しく刺激してきた。
「ひっ…!」
勝手に盛れる引きつった悲鳴。名前はほぼ無意識のうちに目の前にいる柳生にしがみついた。
中腰の体制になっていた柳生のその腰に腕を絡めしっかりと抱きつきながら腹部に顔を押し付けた。立て続けに起こった雷の怒号に、今にも泣いてしまいそうだった。
柳生にしがみつく腕はかたかたと小刻みに震えている。いや、腕だけではない、体全体だ。
「苗字さん、大丈夫ですか…?」
落ち着かせるような柳生の声が、名前の耳に滑り込んできた。その声と同時に、背中を優しく撫でさすってくれている。
たったそれだけの事だが、名前は柳生のその行為がふと幼馴染である不二周助を思い出させ心の底から安堵することが出来た。
名前はしがみついていた腕をそっと離し顔をあげ、恥ずかしさでいっぱいの表情を柳生に向けながらそっと口を開いた。ちなみに、未だ怖さは残っているのか柳生の制服を少しだけ摘んでいる。