第7章 赤色ドロップ
成長した今となっては、さすがに泣き叫んだりなどは無くなったが、それでも雷は苦手なままでよく不二に手を握ってもらっていたのを思い出す。
雷がなっていたら、不二はすぐに名前の元に駆けつけたし、黙って手を握って頭を撫でたり、そっと体を包み込んで抱きしめてくれたり。
離れ離れとなってしまった今では当然それをしてもらう事が出来なくなり、名前は不安で仕方なかった。
しかし、だからといって転校を拒否するほど名前は幼稚ではない。不安は不安だが、なんとかなるだろうと豪快に笑っていたのだが……不幸な事に一人のこの状況で、今にもその苦手な雷が今にも鳴り出しそうだった。
ごろごろと嫌な音が耳に滑り込んで来る度に、ビクリと体を震わせ耳を塞ぐが決定的な雷の音はこなかった。その度にほっと胸を撫で下ろすも、殺すならばいっそ殺せと思っている名前もいる。
決定的な音は鳴らないものの、未だごろごろという音は鳴り止まぬまま名前を脅かしている。
ーー何処か、人のいる所に行こうかな?
名前はふとそんな事を思い、思考を巡らせた。
今から調理室を出て、丸井が居るという視聴覚室へと向かったとして…運良く補習が終わっていればいいが、終わっていなければ廊下で待ちぼうけとなってしまう。
それはすなわち、どこまでも続いているのかと錯覚してしまうような廊下で、いつ落ちるか分からない雷に一人怯えていなければいけないという事で…。
そんな自分を想像し、こくりと喉を鳴らした途端ーーほんの一瞬、外が真っ白な世界へと変わった。
「ひっ…!」
喉の奥に引っかかった声を、無理矢理引っ張り出されたような、そんな引きつった声が漏れた。
それと同時に耳を劈くような雷の怒号が、名前の耳を刺激した。ほぼ無意識で耳を塞いでいたが、それでも雷の怒号は名前の耳に届いてしまっていた。
身を縮こめながら、勝手にじんわりと涙が浮かんでしまう。小さくなった体をぶるぶると震わせながら、今度こそ雷の音を聞きたくはないと強く耳を塞いだ瞬間ーーまた窓の外が真っ白な世界へと変わった。
ーーもう、いい加減にしてよ…!
心の中でそう叫んだと同時に、調理室のドアがゆっくりと開かれた。