第7章 赤色ドロップ
吹き出して笑い始めた柳生に、丸井、名前、須野の驚いたような視線が彼へと飛ぶ。
それは突然彼が、少しだけ声をあげて笑い始めた言うのもあるが…普段控え目な声で笑う柳生が、腹に手を当て至極楽しそうに口開けて笑うものだから、驚いたのだ。
しぱしぱと目を瞬かせながら驚く三人の視線を受け、柳生ははたと我に返り口に手を当て咳払いをひとつ落とした後、ゆっくりと口を開いた。心なしか、ほんのり頬に赤色が差している気がする。
「…失礼しました、驚かせてしまいましたね」
そう言葉を紡いだ柳生はゆっくりとひとつ瞬きをしたあと、丸井へと視線を移した。
「それで、丸井くん。補習へは行かないのですか?」
「いや…その、あるの知らなかったつーか…なんつーか…」
「おや…変ですね…。金曜日の朝、補習者がいる各クラスの担任から話がいっている筈ですが」
「金曜日ぃ?…あー、だから俺知らなかったのか」
気だるげなその言葉と共に、頭をかいた丸井に名前は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
ーー金曜日…私に付き合ってサボってたから…。
だから、知らなかったんだ。名前はその事に気が付き、呑気にフーセンガムを膨らませている丸井へと視線を向けた。
「ごめんね丸井くん…私のせいだ」
「あ?んなことねーよ。お前のせいじゃねぇし、あれは俺が勝手にやった事だ、気にすんな。だからんな顔すんなっつーの」
「…ありがとう」
うりうりと頭を撫でられ、思わず頬を緩ませれば、須野の大きめな咳払いが耳に滑り込んできた。その咳払いに思わず二人はザザっと反射的に距離をとってしまう。
少しだけ離れた丸井と名前の距離に、須野はうんうんと納得したように頷いた後、厳しい眼差しを丸井へと向けた。
「丸井さん、不純異性交遊をしている場合ではないんですの!補習者は早く視聴覚室へと行くんですの!」
「へいへい分かりましたよ…」
「…丸井さん、緊張感がないようですので申し上げますが、次の再テストでも赤点を取りましたら今度は部活動一ヶ月停止になりますの」
「はぁ?!い、一ヶ月…?!」
「それは…真田くんの鉄拳が飛んできそうですね」
一ヶ月、という言葉に青ざめる丸井よりも、柳生の鉄拳という言葉に名前の興味は向いた。